長編ジャイキリ

□3 テレビより散歩
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「あんたやっぱり変わってんな」

「そうですか?私は…俗に言う世間知らずという奴なので…」

「それとはまたちがくねぇ?」

「そうだと良いですけど」


名無しさんがそう言うと、その直後彼女の携帯がぶぶぶっと震えた。

名無しさんは持田に断ってから携帯電話を取り出して耳に当てた。

そういえばここは屋外だ。

持田もちらりと自分の携帯を確認した。

一通メールが入っていた。

来週テレビに出ないかという珍しい話だった。


「――ふざけんな…」


一気に気持ちが冷えた気がした。

こんな時に空気も読めないのか。

こんな時に呼んで話のネタにでもする気か。

隣では名無しさんが両親の電話に答えていた。

それが終わっても、持田は携帯を握りしめて顔をしかめていた。


「持田さん…?」

「来週のこの時間…テレビ出演」

「え、すごいですね!」

「でも止めた」


持田は爽快そうに言い切って、「悪いけど辞退します」とメールを送り返した。

名無しさんは怪訝そうに持田を見た。

持田は不敵に笑って見せた。


「だって来週は、俺があんたと出会って一ヶ月だし。
この日のこの時間はここに来るって決めたし。
てかテレビとかつかれるだけだし」

「持田さん…私に気を使わなくてもいいんですよ…?」

「ぶはっ、俺に気が使えると思った?」

「いえ…あんまり」

「正直な奴だな」

「すみません…ふふっ…じゃあ来週も散歩をしましょう。
あと持田さんがW杯に出ていたって言う試合も見てみたくなりました」

「ほんとあんた欲ねぇな」

「世間的に見たら持田さんと一緒にいたいってだけでだいぶ欲張りだと思いますけど…」


 次の週、持田はテレビ局の誘いを蹴って約束通り名無しさんと散歩をした。

それから自分が出たW杯のDVDを持ってきて、彼女にサッカーのルールを簡単に教えてやった。

名無しさんは物わかりがよく、持田もだんだんおもしろくなってきて色々教えてやった。


「持田さん実況者もできますよきっと!」


彼女はそういった。

持田は曖昧に笑っただけだった。





 テレビよりあんたの瞳に映されて
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