長編ジャイキリ
□3 テレビより散歩
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持田は最近、前向きに練習にでれるようになったきがしている。
走れなくてもできることはある。
今までのようにチームのためにチームメイトを罵ってみたり(怪我をしている自分が言えるようなことではなくても、チームのためなら嫌われ役を買って出るのが持田だ)、
自分に関してはトレーニングなど体のこともそうだが、実況を注意深く聞いてみたり。
持田という男には似合わないことかもしれないが、それも気にならなかった。
その週は名無しさんと散歩をした。
あれから持田は月曜日の夕方ここを訪れることを日課としていた。
もう十月に入ったというのに彼女は相変わらず白いワンピースを着ていた。
彼女は一歩一歩を楽しむようにひどくゆっくり歩いていた。
持田は大してじれったい気持ちにもならず彼女に歩調を合わせて歩いた。
持田はフードを被ってマスクをした。
彼女はワンピースを着ているので、そんな二人が並んで歩くのは妙な感じがした。
「持田さんがお散歩に付き合ってくれるとは思わなかったです」
「俺も脚がわるいし、たまにはいいじゃんこういうのも」
「ふふっ、持田さんには似合わないですよ」
「悪かったな」
「あ、ちがいます。散歩の事じゃなくてマスクのこと」
「はぁ?俺があんたのところに通ってるなんて記者に見つかりでもしたら最悪じゃん」
「そうなんですか?」
「こうやって散歩してるところも隠し撮りされて雑誌に載せられたりして」
「へぇ…有名人は大変なんですね」
名無しさんは持田の言うことの重大さがよく分かっていないのか、笑うだけだった。