長編ジャイキリ

□6 再会
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 持田はすぐに走り出した。

出来るだけの早さで。

それでも以前の早さにかなうわけもなくもどかしさでいっぱいになった。

持田がたどり着くその前に、名無しさんは膝を突いた。

持田の心臓は急に冷たくなった。


「名無しさん!」


持田は、彼女がここに来たときにそうしたようにフェンスに飛びつくようにつかみかかって叫んだ。

名無しさんは浅い呼吸を繰り返しながら顔を上げた。


「も、ちだ…さん…」


「名無しさん…お前何でいんだよ、ふざけんな!」

「ごめ、なさ…でも、あやまら、なく…ちゃ」

「いい、もう良いから…!そっから動くなよ!」


持田は一度フェンスを離れて入り口にまわり、フェンスの外側に出た。

名無しさんの周りには既に興味津々のギャラリーが集まっていた。

持田はそれに「どけ!」と荒々しく声を上げて退かせ、名無しさんを抱き寄せた。

胸の中にある命の灯火は、不安げにゆらゆら揺れていた。


「名無しさん、しっかりしろ!」

「へへ…だい、じょぶ…」

「どこが大丈夫だよ!?マジ笑えねぇ…なぁ、名無しさんっ」

「は、い…?」

「あんただけは、失いたくない。この前は俺が悪かった。だからもう…」


人目なんて気にならない。

持田は率直に言った。

すると名無しさんは新しい涙を溢れさせながら、持田の頬に手を伸ばした。


「もちださん…苦しっ…」

「はぁ?待て、苦しいところがあんならすぐに言って――」

「ちがっ、苦しそう…」


持田は歯を食いしばって名無しさんの手に自分の手を重ねた。

後ろが騒がしくなり、大崎を中心としたクラブスタッフが持田に追いついた。

持田は振り向いて大崎に言った。


「大崎さん救急車」

「…おうよ」
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