短編レジェンズ&FS

□或る昼下がりのこと
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「んねぇー、シロン」
「あ?」
「私、レジェンズに生まれたかったかも」
「は、なにいってんだよ」
「だってさ、じゃあせめて巨人が良かった」

ある日の昼下がりに、シロンと学校の屋上で話しているとそんな考えが浮かんできて、
私はつい声に出して言っていた。

「巨人だぁ?」
「うん。そう巨人」
「身長、気にしてんのか?」
「うるさいなそうじゃないよぅ」
「じゃなんだよ」

だってね……

「だってさ、私シロンよりちっちゃいんだもん」
「俺よりでかくなりてぇのか」
「ううん。シロンのことを力一杯抱きしめてあげたいの」

街を見下ろせば、道を走る車は小さく見えた。
私がいくら手を伸ばしても、シロンの背中には回らない。
ニューヨークの街にある大きなビルの屋上に手が伸びないのと一緒で、自分からキスすることだってできない。

「大きさ、気にしてんのか。それともおれがレジェンズだって事か?」
「違うよ。グリードー達見てればそんな悩みはなくなっちゃった」
「ああ、あれか」
「我ら種族は違えども、ってやつ」
「じゃあなんだ」

シロンは大きなしっぽを使って私のことを引き寄せる。

「シロンの背中に手が届かない。
自分からキスできない。
シロンがどこかに行っちゃうときも、引き留めるだけの力がない。
私はちっぽけなんだなーっておもったの。
シロンができること、私は何にもできないの」
「お前……」

シロンは驚いたように目を見開いたけれど、その後に赤面して髪をかきむしった。

「そりゃ俺だって同じだ」
「へ?」
「お前は俺のこと力一杯抱きしめようとしてくれる。
けど俺は、できねぇんだ。
お前がつぶれっちまうからな」

「……!」

「家の中で一緒にくつろぐにはでかすぎるし、こんなナリだから一緒に出かけてもやれねぇ。
俺だってやりたくてもできねぇことがあんだよ」

そっか…私だけじゃないんだ…

「えへへ」
「なんだよ気色わりぃ」
「私だけじゃなかったんだ」
「ったりめぇだバカヤロー」

「家でなんてくつろがなくても屋上があればいい」
「そうか」
「街でデートできなくても、空につれてってくれればいい。
シロン大好き」
「おぅ」
「シロン、キスしよう」

ちょっと恥ずかしかったけれど、言えばシロンは手をさしのべてくれる。
その手に上っていつもみたいにシロンに近づく…あ……!

「待ってシロン」
「?」

良いこと思いついちゃった。
私はその手を伝ってシロンによじ登った。
首輪に足をかけて、飛行帽に手を伸ばして、やっとの事で頭に上った。

「なんだぁ?」
「えへへー」

そしてシロンの頭の上から下をのぞき込むようにして、キスをした。

「ほら、私からできたよ!」
「……!」

私からできたの、初めてだったからかな?
放心しかけてから、こんどはシロンからキスをしてくれた。


――或る昼下がりのこと――








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