短編レジェンズ&FS
□青空に足りないもの
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※レジェンズウォー後
ふと、久々に自分の取った写真を見直していた。
私は親友のメグと一緒で写真を撮ることが大好きで時々こうして撮った写真を引っ張り出してきて見直すのだ。
どれも私がとりたいと思った風景がおさまっているだけあって、みんな思い出深い。
その中には風景とかも多くて、だけど一枚不自然なものがあった。
とってあるのは青空。背景には絶景だ。
だけどそれは背景で、という話。
それは空が被写体ではなかった。
なのに空以外なにも映っていない。
それが不思議だった。
自分が撮った写真のことは自分が一番よく分かる。
だけどこの空を取ったときのことは記憶になくて、その後に何枚もそういう写真が出てきた。
不自然に写真の右にばかり人が集まっていたりとか。
まるで左に誰か居るみたいな構図だ。
そんなわけないのに。
写真に写っているものに嘘はないはず。
ちょっとだけ気味が悪かった。
そしてちょっとだけこの空をとったときのことを思い出せないことが切なくなった。
変なの。
その日も私はメグ、シュウ、マック、ディーノというおなじみのメンバーで特に用事もなく街をうろうろしていた。
シュウが通りかかりのお姉さんに声をかけてメグにチョップを食らったり、マックが苦笑いしてディーノが呆れてみている。
私はその様子をシャッターにおさめて笑う。
「あ、みてカヤ!」
「ん?」
「超かわいい!」
そいつは、いつも集まる時計台の建物にあいた小さな穴の中にいた。
ただのネズミだった。
なのに私はずっと前からそいつを知っているような気持ちになった。
ふと、あの写真のことが浮かんできた。
今日もあの空みたいに良い天気だ。
「ねぇ、写真とっても良いかな」
私は言った。
ネズミはよく分からなそうにじっと私を見ていた。
ネズミに話しかけるなんて、私もどうかしてるよね。
「あ、出ちゃった」
メグが言いながら道を空ける。
ネズミは穴を出て、少し行ったところで立ち止まった。
私は道の真ん中なのも気にせずその場に寝そべってネズミの写真を一枚撮った。
うまく空が映ってると良いな。
「ありがとうネズミちゃん。またね」
それからしばらくの間、ネズミは街にいた。
シュウが「ネズっちょ」というので、私もそのネズミをそう呼んだ。
なんだか幸せだった。
意味が分からないかも知れないけれど、心に感じていた切ない穴がふさがるような。
たとえるならあの不自然な写真の隙間を埋めるような感覚がした。
時々ネズっちょと鉢合わせするとその日はラッキーな日だった。
なのに、ネズっちょはいつの間にか居なくなってしまった。
まぁ、そっか。ネズミだし。
だけどただのネズミを見かけなくなっただけなのに、私は寂しかった。
あのネズっちょの写真は、青い空を背景にうまくとれていた。
何年かたって、私は結婚して、子供が出来てやがて年老いた。
いまでも時々あのネズミのことを思い出す。
不思議な思い出だな。
そういえば結婚したとき、私の机の上に小さなお花が置かれていた。
たまたま入り込んだだけかも。
でも私はそれを置かれたものだと認識した。
その花に見覚えがある気がした。
ネズっちょの事を思い出して、冗談交じりに「ネズっちょが私を祝ってくれたんだよ」ってシュウに言ったら、シュウはそうかもなぁって珍しく同意した。
そして誰からの祝いの言葉よりその花が一番の祝いで、そして私にちょっぴり切なさを与えていった。
私はそれを押し花にして透明なカバーに挟んでいまでも大切に持っているんだよ。
私は病室の白いベッドの上からおしばなを手に持って窓の外を見ていた。
もう、私の命はそう長くないと思った。
夫は先立ち、私を看取ってくれるはずの娘はまだ来る時間ではない。
けれど死に様を見せるのは良くない気がしたから、このまま誰にも気が付かれずに静かに息を引き取れればいいと思った。
だんだん意識が遠くなっていくような感じがした。
脳裏にまだ若かった頃の私たちのことが浮かんできた。
これは走馬燈というやつかな。
ああ、なつかしいなぁ。
みんなと出会えてよかった。
そしてその中に、あのネズっちょが出てきた。
ネズっちょはシュウの持っているおもちゃに吸い込まれて、そしてドラゴンになって現れた。
私はそのとき、全てを思い出した。
ネズっちょが何だったのか、どうしてあんなに切なかったのか。
どうして忘れてたんだろう。
馬鹿だなぁ、私は。
今なら断言できる。
あの花はやっぱり君がおいていってくれたんだって。
窓から吹き上げた風に、手の中の押し花は飛ばされた。
そしてそれを、誰かが取って差し出してくれた。
「シロ…ン…」
「よぅ、久しぶりだな」
私の上に大きな影が覆い被さった。
そのシルエットを私はよく知っていた。
「――ええ…久しぶりね。どうして…ここに?」
「お前の最後くらいはみとってやりてぇじゃねぇか。
あいにくネズっちょの姿じゃ結婚の時も祝ってやれなかったけどよ」
「ねぇ、またどこかいっちゃうの?」
ああ、私はこんなに老いぼれたのにシロンはあのこと全然変わっていないのね。
「私、寂しかった。2回も置いてけぼりにされて」
「わりぃな。けどもうどこもいかねぇよ…」
「そう…こんなおばあちゃんでよければ、最後まで付き添ってちょうだい」
「ババアだろうがガキだろうがカヤはカヤだろうが」
「そういってもらえると嬉しいわ」
ふー、と長い息を吐いた。シロンの翼が私を包んでくれて、私は幸せだった。
「シロン…ずっと、一緒…ね?」
「ああ…ずっと、な」
意識は、真っ白になった。
***
その後、部屋を訪れたナースによりカヤの死亡が確認された。
そしてその手の中には小さなネズミが体を丸め、愛おしそうにカヤに寄り添い、息絶えていたという。
後書き
なんだろコレせつねぇっ!!