短編ONEPIECE
□白い紙にのせた想い
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キッドは夕食を終えると、一人船長室に戻り、クルーのキラーと次の島について話していた。
次の島は春の島で、どこかでコックを新しく連れてこようという話にまとまってきていた。
先日へまをやらかしたコックは海に落ち、大きな鮫に食われてしまったのだ。
「俺の知っている限りでは北の方にいい店があるらしい。
そこから連れてくるのがいいだろうと思うぞ。」
「そうだな、その辺はキラー、お前に任せる。」
「ああ、その方がいいな。」
キラーはそう答えてから時計を見て、立ち上がった。
そしてそそくさとドアの方まで歩いていった。
どうやら話し合いはそこで終わりらしかった。
キラーは一度ドアを開けて、一歩踏み出してから何か思い出したように振り向き、一言、言った。
「キッド、この海賊団にも力は十分についてきたと俺は思う。
…迎えに行ってやらなくてもいいのか?
いや――白ひげが戦死し、荒れ始めた海に連れてくることもないのかもしれないが、
会うくらいなら、罰は当たらないんじゃないのか?」
そしてキッドが何も言わないのをわかっているというように出て行った。
キッドはそのまま無言で、武器を入れていたホルダーの内側にある、小さなポケットのボタンをあけ、
そこから小さな紙切れを取り出した。
ビブルカードだ。
キッドは6時30分になるとそれを手のひらにのせたままソファに座っていた。
キッドは一日のどの時間よりもこの時間が好きだ。
ゆったりと座り、ある女のことを考えるこの一分間は海という危険な世界の中からはかけ離れていて、キッドの心をいやした。
女を抱くより、財宝を見つけたときよりも、それらと比べることすらかなわないほどに。
ビブルカードにはインクでRとかかれており、それはその時間が訪れると共にキッドの方を向いた。
キッドの脳裏にふと、海岸を歩く少女と少年時代の自分の姿が浮かんだ。
――「R?なんでそんなもんかくんだ。」
「レティのRよ。Rって書いた方が頭。」
「は?」
「だから、こんな真っ白な紙じゃ誰がどっち向いてるかわからないじゃない。
だからこのRの指す方向が私の向いている方向よ。」
「じゃあそっちのも貸せ。俺も書く。」
「本当に?うれしいなぁ〜、えへへぇ〜」
「そんなにうれしいか。」
「うん。あ、ちゃんとKってかいてよね!」
「あぁ?」
「だってさ、キッドのKってキングのKだよ?
――キッド。海賊王になる前に、私のこと迎えに来てよ。
私は弱いからこの村に残るけど、キッドが強くなったらさ、迎えに来てよ。
私キッドが海賊王になる瞬間見たいの。
だってさ、キッド。
私の夢は海賊王のお嫁さんになることだよ?
それに…私毎日お祈りする。
キッドの方を向いて、キッドが海賊王になれますように〜って!」
「…そうか。じゃ、早く強くならないとな。迎えに来たら、一緒に海に出る…約束だぞ。
そん時には、俺がお前のことを、守るから。」
「うん!」――
キッドはふぅ、と息を吐いて、ビブルカードを見つめた。
ビブルカードはそれから31分になるとゆっくりと向きを変えた。
「――会いに行っても…いいのか?」
誰が答えてくれるわけでもないし、キッド自身答えを求めていたわけではない。
ただ、何かに向かってそう尋ねた。