短編ONEPIECE
□あなたと私の出会いは鉄
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レティは鉄を扱う家に生まれた。
母はレティを産み落とし、そして命をも落とし、父と二人で剣を作って暮らしてきた。
だがその父も数年前に山賊に命を奪われ、レティはまだ成人前だというのにだった一人で生きていた。
学校に通うこともやめ、19歳になったレティは今日も一人、剣を作る。
ある日、レティはいつもと何かがつがうことに気がついた。
――鉄がざわめいている。
レティには鉄の心が分かるのだと村人は言う。
剣を鍛え直しに来る客にレティは、もっとこう使いなさい、と言うのだ。
それは、剣が根本から悲鳴を上げているだとか、先がこぼれているとかそんな理由からなる。
だがレティはさらに言うのだ。
波の高いに日は剣がもどかしそうにうずいている。
雷の日には刃をランランと光らせ、いつか自分を迎えに来る使い手のことを思う。
晴れた日には気持ちよさそうに窓から差し込む光を受ける。
曇った日にはつまらなそうに機嫌を悪くする。
雪の日には凍え、雨の日には小さくきしむ。
そんなものはただの迷信だという村人もいざレティのことを尋ねてみると、それを信じるようになる。
それはレティの瞳は優しく、母親のように剣達に向けられているからだ。
その剣達のなかに、レティが一番大切にしている短剣がある。
毎日磨かれるそれは美しく光り、柄の根本にはレティが幼い頃から貯めたお金でやっと買った赤い石がはめ込まれている。
それは今までレティが作ってきた剣の中でも一番の出来で、
レティはその短剣をすばらしい海賊に使ってもらうのが夢だった。
父を殺したのは山賊だった。
だがそのときにレティの命を救ったのはある海賊だった。
もう顔すら覚えていないが、レティはそれから海賊を好くようになった。
もちろんいい海賊ばかりではないが、悪い海
賊ばかりでないのも事実だ。
レティはその日も短剣を磨きにかかった。
剣がかたかた揺れるわけではない。
今日は晴れ。これでもかと言うほどの快晴だ。
だが剣はうずうずしているようにレティには思われた。
なんだか海の方向へ剣が引き寄せられるようで、レティにとってもこんなことは初めてだった。
「海に行きたいの――?」
何が答えてくれるはずもない。
それでもレティはつぶやいていた。
しかし答えは返ってきた。
家の前を走り去った村人が叫んでいたのだ。
海賊が来たぞ、酒場を開け、女子供は家に隠れろ、と…。
レティは立ち上がっていた。
短剣を鞘にしまい込み、握りしめたままに家を飛び出していた。
通り過ぎた村人がレティがドアを開ける音に気がついて振り返り、目を丸くする。
「レティちゃん!海は危険だ!いつもの陽気な海賊とは訳が違う!
三億の賞金のかかった海賊だという情報が…ま、まちなされ!」
レティは村人に目もくれなかった。
ただ、三億の賞金という言葉は小さくも耳に届いていた。
三億――相当な金額、ただ者ではない。
いままでそんな海賊に出会ったことがあっただろうか。
レティはその瞬間に思った。
この短剣はその海賊を求めているのではないだろうかと。
レティは走る速度をゆるめるどころかどんどんあげていった。
そして海岸は、ちょうどその海賊船を受け入れたところだった。