短編GIANTKILLING

□きっかけは居眠り
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「さ、堺君…」

小声で言ってみたけれど、変化はない。

教室の窓からは気持ちよい風が入り込み、カーテンをふんわりとゆらした。

高校総体が始まるこの時期は
、居眠りにも最適な時期で疲れた運動部のみんなはよくこんな感じになっている。

隣の席の堺君も、そのうちの一人だ。

それにしても堺君でも居眠りとかするんだなぁ…
いつも眉間にしわを寄せているけれど今はそれもすっかり無くなっていて、
あれ、堺君ってかわいい寝顔なんだな〜だなんて思った。

…って、それどころではない。

そう、起こしてしまうのは忍びないけれど、さっきから先生がちらちらとこちらを見るのだ。
堺君が寝てしまっていることに気がついているらしい。

あの先生寝ている人ばかり当てるからこのままでは堺君も当てられてしまうのだ。

「さかいくーん、おーい」

先生が黒板に向いているスキに、そっと手を伸ばしてちょんちょん突っついてみる。
堺君はばちっと目を開いて、それと同時に先生が「じゃあ、堺」と声を上げた。

「え、あ、はい」
「ダレイオス一世がつくらせた王の道はどっからどこまである?」

うわー、先生意地悪な問題だな。
さっきまで眠りこけていた堺君に分かるわけが無いじゃないか。
私はすぐにノートの端っこに答えを書いて先生にばれないように堺君の方に傾けた。

「…スサからサルディスまで」
「おーう、そうだな。このほかにも駅伝制と言うのが整備されて――」



「おい、紺野」

授業が終わって次の数学を準備していたら、堺君が話しかけてきた。
堺君はちょっと目をそらしながら言った。

「さっき、ありがとな」
「あ、ううん!堺君が無事で良かったよ!
それに堺君総体大変だったでしょ?昨日」
「あー…まぁな」

そう、堺君のサッカー部は昨日が総体の一回戦目で、大勝したのだと友人から聞いていた。

「そういえば昨日はどうだったの?」
「ああ、8対1で勝ったよ」
「わっ!余裕勝ちだね」
「いや、無失点で終われなかったところは反省しないと。
チャンスも数回無駄にしたしな」
「い、言ってることのレベル高いね…」

逆にその状況で一点入ったってどういうことなんだろ。

「あれは完全に俺のクリアミスでそれをカバーしようとした奴がファウルとっちまってPKだったんだよ。
…わりぃな、わけわかんねぇだろ」
「ううん、大丈夫!サッカーはテレビで時々見るから、それくらいならわかるよ」
「見るのか、意外だな」
「まだよく分からないことが多いけどね…。堺君ポジションは?」
「トップ下だ」
「あ、じゃあいっぱいゴールねらえるんだ!昨日は?」
「昨日はハットだ」
「え、ハットトリック!?」
「おぅ」
「すごい!三点なんてなかなかできないよ!」
「相手が相手だから、そこまですごくねぇけどよ…」

堺君はちょっと照れくさそうに頭をかいた。

なんか堺君って怖いイメージ合ったけど、割と話しやすいんだな…

「――じゃあ、まぁお前サッカーは好きなんだな?」
「うん、割と好きだよ」
「なら、次見に来いよ」
「……!?」
「ハットトリック見せてやるからよ」

私は、驚いたけれどそれよりも堺君のハットトリックがみたいと思ったから、何も考えずに「絶対に行くね!」と言っていた。

「じゃあ今日の練習もがんばらねーとだな」

そう言って笑ったのを見て、ときめいたのを覚えている。


今思えば、この瞬間が良則に恋したきっかけだったのかも知れない。




――きっかけは居眠り――






後書き
初ジャイキリです!
へたくそで申し訳ない(汗

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