短編GIANTKILLING

□はじまりはいつもここから
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 久々のオフに、街を歩いていた。

できるだけ俺だってばれないような格好で。

俺に気がついてくれるサポーターが居ても、そいつらは
俺の貴重なオフを邪魔しちゃ悪いと分かっているから二度見して「あれ星野だよね」とこそこそ話すだけで
俺自身には話しかけてこない。

できれば俺に視線を向けたりこそこそ話すのも止めてもらいたいがそこはまぁよしとしよう。

最高のオフだ。


そんな中、喫茶店にでも寄ろうかなだなんて考えた。

しかし、一人ではいるには気が引けるな…。

普段こういうところに一人で来る機会がないから気恥ずかしい。

店の前で立ち止まってどうするかな、と考えていると、
隣で誰かがおれと同じようにうんうんうなっている事に気がついた。

相手も俺に気がついたのか、俺たちはほぼ同時に顔を合わせた。

あれ、なんかこいつ見たことあるような…


「ほっ…星野さん!?」
「え、紺野か?!」


そりゃあ、見たこともあるはずだ。
相手は女子サッカー日本代表の紺野カヤ
だったからだ。

それにしても…アスリートの女子とは思えないくらい清楚でかわいいカッコしてんな…

「あの、星野さんもオフですか」

「ああ、お前もか」

「はい。あ、オフを邪魔しちゃってすみません」

「いや、いいよ。それよりどうしたんだこんなとこでよ」

「いえ、あの実は…喫茶店一人ではいるの恥ずかしいなぁと思いまして…」

「お前もか」

「え、という事は星野さんも…?」

「まぁ、そんなところだな」


――ということで、紺野と一緒に喫茶店に入ることになった。


「でも、スキャンダルとかならないですかね」

「あ?ああ…まぁお互いキーパーだから、そ
れを理由にすれば大丈夫だろ」

「ああ!そうですね。ならよかったです」


紺野はふぅっと安堵のため息を漏らして席に着いた。

そりゃそうだよな。

メディアってこえーからな。
俺も意味のわからねぇスキャンダル報じられたこともある。
あんなのはもうゴメンだ。


「何にする?」

「えっ…どうしましょう。正直名前の分からないものばかりで…」

「なんだ、そんなかわいいカッコしてんのに来慣れてないのか?」

「はうっ…それは言わないでください…正直誰にも会わない予定できたものですから…。

昔からサッカーばかりだったのでこんなひらひらの服を着ているだけでも顔から火が出そうです」

「俺お前が本当に代表選手なのか疑いたくなったわ」


自分の服装だけで恥ずかしがる奴がよく国立のゴールに立てたもんだな。

とりあえず俺はそんな紺野の為に知ってる名前のコーヒーを頼んでおいた。

そういえば、こんなこと前にもあったような…

「そういえば、星野さん。前にもこうしてここでお茶したことありましたよね」

「…だよな、あったよな。いつだったっけな」

「星野さんが代表入りして、私が未だ代表入りしてない頃です。
テレビの対談で一緒に出演させていただいた後に」

「ああ、あったなそんなこと。
代表の新守護神×期待の新キーパーとかって奴」

「覚えててくださったんですね」

「まぁな。そのときと比べるとだいぶイメージ変わったな。
試合も時々テレビとかで見てたけど、そんときも鬼の表情してたし」

「なっ…!ほ、星野さんだって鬼じゃないですか!」

「へぇ?誰が鬼だって?」

「それ、その顔ですよぅ!」


紺野に試合中の表情を向けてやったら本人は
本気で後ずさろうとしたのか椅子の背もたれに背中をぶつけていた。

なんだこいつ、こんな奴だったっけ…?

「この前の時はすごく緊張してたんですけど、本来はすごく気が弱いと言いますか…。

ただ試合や練習が始まると人が変わるねってよく言われます」

「それは俺も思った」
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