短編GIANTKILLING

□いのち
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 体育の授業中に、体育館に入り込んだ小鳥がいた。

上の窓に何度も体当たりをしていたのがチラリと見えたのだ。

鳥にはガラスが見えないと聞いたことがある。

すぐ目の前には世界が広がっているのに、見えない何かに阻まれている。

それがなんなのか分からないから何度も向かっていくしかない。

 回り道をすれば、出られるのに。

先生はどうやら小鳥に気が付いたみたいだったけど、ただ舌打ちをしただけで助けてくれなかった。

今すぐに梯子を伝って助けにいってやりたいけれど、生憎そんな勇気は持ち合わせていなかった。

高いのが怖いことと、先生が恐ろしくて。

そんな勝手なことをしたら怒られるし、みんなから変に注目を浴びてしまう。

けれど、授業の終わりにさしかかっても小鳥はまだ体当たりを続けていた。

そこにはガラスというものがあって、通り抜けられないんだよ。

そう教えてあげられたら。

けれどそんなことできるはずもなくて、私は泣きそうになりながらそれを見るだけだった。

鳥は、脳しんとうを起こしたのか、力尽きたのか、たまっていた埃を舞い上げて姿を見せなく合ってしまった。

ああ、私の勇気のないせいで、しんでしまったのかな…?

そもそも、人間がこんなところに学校を作ったからこうなったんだ。

だったらその責任としてせめてあの小鳥を助けてあげなくちゃいけない。なのに。


「おい、何してんだ持田!」

少し向こうで、先生の怒鳴り声とみんなのざわめきが聞こえた。

ああ、また持田君が問題でも起こしたのかな?

でも今の私にはどうでも良いことだ。

どうか、生きて…。

祈るばかりだけど、いっこうに小鳥は姿を見せない。

けれど視界にその持田君が入ってくると、ようやく私の意識の中に彼が取り込まれた。

 なんで私の視界に彼が…?

私は小鳥が突き破ろうとしていた上の窓をじっと見ていたのに。視線は移していない。

じゃあ、視界に持田君が入ってきたということだ。

「おい!持田授業中だぞ!」

「授業中じゃなくってもここ上ったらおこるでしょ」

「わかってるならさっさと下りんか!」

「いやだねー、あんたの言うこと聞く義務ねーし」

「なに…!いつまでもそういう口をきいていると処分が下るぞ!」

「好きにすれば?俺のことほしがってる高校とかクラブとか、いくらでもあるから。

聞きたくもないこと聞いてまで居たいと思えるようなとこでもねぇしな」

「生意気なガキが…」

持田君はそのまま歩いていった。

「――あ」

待って、そこには小鳥が居るかもしれないから、だめ――

持田君が、一瞬私に目配せをしたように見えた。

持田君はかがんで、なにかをすくい上げた。もしかして小鳥…

「ふーん、気絶してんのか」

持田君は大して興味もないといった様子で言って、それから小鳥を片手に梯子を伝って下りてきた。

みんなは、持田君が持っているのが小鳥だと分かると歓声を上げた。

「さっきの鳥か!よかったな!」

「さすが持田!実は俺も心配してたんだ」

また、持田君はそれらの呼びかけも大して興味もないように聞き流して、言った。

「はい、授業終わりー。あざーっしたー」

その直後に、チャイムはなった。

今度はあいさつもしないで体育館を出ることに恐怖を感じているわけにはいかない。

だって持田君は先生が怖いとか、そんなことおかまいなしにあの小鳥を助けてくれたから、だから…


「持田君!」

「紺野?ああ、ちょうどよかった。

連れてきたのは良いけど、どこにおいとけばいいかなーって思って」

「え…あ、ああ。中庭で良いんじゃないかな。次期に目が覚めると思うから…」

「ふーん。じゃあついてこいよ」

「あ、うん!」

足の速い持田君に早足でついて行って、私は言った。

「あの、私が言うのもへんかもしれないけど、助けてくれて本当にありがとう」

「ああ、お前泣きそうな顔してたもんな。あれはウケるわ」

「え、見られてた…!?」

「ばっちり。まぁおかげで気がついたわけだけど。あそこでいいか」

持田君は中庭にある木下に向かっていく。

それについて行きながら思った。

持田君は自信過剰で勝手な問題児だとずっとおもっていた。

だけど、それは私の勘違いだったみたい。

「持田君は、本当は優しい人だったんだね。ずっと誤解してた。ごめん」

持田君はしゃがんで小鳥を置きながら私の方に振り向いて、すこしだけ赤面した。

さっきはあんなに平然とみんなの言葉を聞き流していたのに。

「別に、やさしくねーし。気が向いただけだ」

「そんなことは…」

「お前があんな顔しなかったらほっといてもよかったし」

「えぇ!酷いよそれは!…って、それってどういう意味……?」

「さぁ?ほら、早く行かないと次の授業遅刻だぜ、まぁ俺はかまわないけど」

「あ、待ってよ持田君!」



――小さなはじまり――





後書き

実はこの前私の学校に小鳥が舞い込んでいたのでかいたはなし。

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