短編GIANTKILLING

□許す優しさ
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「――なーんてことを、いわれてんすけど」


俺のおかしな様子に気がついたカベセンが、どうかしたのかと聞いてきたんで俺はETUのことをすべて話していた。

自粛のことも、花火大会で話し合おうといわれたことも。

けど俺は本当にすべてを話したわけじゃない。

ひとつだけ言わないことがあった。

「どう思います、塾長」

「んー」

さよならカベセン!と挨拶をしていく塾生に渇をいれて、カベセンの言葉を待つ。

「まず、政志、君は私にもう一つ隠していることがあるだろう」

「っ……!」

「別に心を読めるわけじゃあないさ。単純にそう感じただけだ」

さすがカベセンというか、隠してもしょうがないというか。

俺は割と早くに白状した。

「……実を言えば、花火大会はもう一人から誘いを受けてるんです」

「カヤちゃんかい?」

「はい。…あいつは、俺がETUのフロントに抗議に行ったとき、ついてこなかった。

けど、あいつはスカルズの主要メンバーでもあるから何の問題も起こしてねぇのに自粛になっちまって…。

喧嘩したんすよ。

まぁ当然ですよね。

俺のせいであいつが何よりも大事にしてるETUのスタジアムにいけなくなっちまったんだから。

それでスタジアムにもいけないからあいつにも会わないし、連絡してもつながらねぇし…」

「でも、花火大会に誘われた」

「毎年、花火大会は一緒に言行っててなにも言わなくても約束のひとつになってた。

けど今年はわざわざ連絡して、もう一度話そうっていわれたんです。

…正直、どっちをとればいいのか。

ETUのことは俺だけの問題じゃない。

ここで行くかどうかはほかのやつらにもかかわる問題。

だが、だからってカヤの誘いを断るのも…」

ちらりとカベセンを見やると、カベセンはおもしろそうにほほえんでいた。

悪意のある笑みではないけれど俺にはよく分からず困惑した。

「私はETUの事もカヤちゃんのことも、お前さんから聞いた範囲でしかしらんがね、

その人達はお前が私を許してくれたような、その優しさを信じて

歩み寄ろうとしてくれてるんじゃないのかね?」

「え――」

「許すってのは優しさの象徴的な行為だ。

どちらも歩み寄ってくれるならどっちも取ればいい。

たまにはETUで花火を見るのも悪くないんじゃないかね、お前にとっても…」

「カヤに…とっても…?」

カベセンは、やっぱり笑った。


***

俺は、走った。

あいつが待ってるっつってた時計台の下まで。

あいつのことだから、どうせ約束よりも早く来てんだ。

やることは決まった。

ありがとよ、カベセン。

「――!」

「政志……」

「カヤ!」

そんなに長い間喧嘩してたわけでも無いのに、

なんだかあいつの拍子抜けた顔を見るのは久しぶりで少し気が抜けた。

「まだ…15分も早い」

「悪いかよ」

「っ……」

「悪かった」

「え……」

「それで、今からETUに行くぞ!」

「ちょっ…人がせっかく話し合おうって言ったばっかりなのに問題のETUに行くわけ!?」

「そうだ!で、お前ともETUとも仲直りだ」

手を引いて、走り出せば文句は言うくせにあいつはちゃんと付いてくる。

「なぁ、覚えてるかよスカルズのズ」

「っ……覚えてないわけ無いよ。

政志めったにあんなこといわないもの」

「そうかよ」

ちらちと盗み見たら、あいつはもう怒ってなかった。かわりに言った。

「私優しいから、政志のこと許してあげるよ」

「っ!……ありがとな」


握り替えされた手に、らしくないが口元がゆるんだ。



――許す優しさ――




(あ、羽田先生花火大会の時みましたよ!)
(一緒に走ってたの彼女ですか!?)
(勘弁してくれ……)
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