短編GIANTKILLING

□大切なもの
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 あ。やばい。



思ったときにはもう遅かった。

足を付いた瞬間に膝からバキッて、比較的軽いけどそんな不吉な音がして次の瞬間にはマットの上に倒れ込んだ。


痛い。すっごく痛い。


まぁそりゃあそうだ、私は膝を入れてしまったようだし。

逆に曲がらなかっただけ良いかなーって思おうとしたけどそれどころではないくらい痛くてマットに顔を埋めて歯を食いしばった。


「カヤ!」


部員が次々駆けつけてきてくれて、私は友人の持ってきてくれた氷ですぐに膝を冷やした。

客観的に見たわけじゃないからどんな風に怪我をしたのか説明してくれるけど混乱して頭に入ってこない。


 私は器械体操サークルに所属してる。

平均台から前宙をして下りる技をやったら、いつもより高く飛んだみたいでそのまま膝を入れてしまった。

やばいな、靱帯いってなきゃいいけど…痛みと悔しさで涙が溢れてきて、それを押さえながら膝を冷やした。


「すぐに病院に行かなくちゃ。誰か車もってない?」

「今日のメンバーみんな電車じゃん。

だれかカヤの携帯持ってきて!」

「あ、携帯そこにある…」

「あ、あった!はい、とりあえず親に電話しなよ。氷持ってるから」


友人が私の手から氷袋をうばって膝に当ててくれた。

父も母もこの時間は仕事のはずだけど…ダメ元で電話をかける。

けどなんどコールしても出ない。



どうしよう…でも今こんなに痛いのにすぐに立って歩くのは無理だ。

頼れる人は…いないわけじゃないけど…けど…



「他に誰か頼れる人いない…?」

「いるけど…今電話するの気が引けるなぁ」

「そんなこと言ってる場合!?」

「い、今何時…?」

「今は…二時になるところだよ」

「だよね…」

「てか携帯見ればわかるでしょ」

「あ、そっか…」

「ちょっと落ち着きなさいよ」

「うん…ごめん」


ごめん政志。

そう思いながらいつでも着信履歴一番上にくるその名前を押す。


出るかな?

何コール目かで、繋がる音がした。
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