短編GIANTKILLING

□届け
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「ぎゃああぁぁああ堺さんんん!!」


叫ばれた。まぁ、いつものことだけれど。


「うっせーぞカヤ」

「いやぁああ喋らないで下さい!びーくわいえっと!」

「発音わりぃな」


一歩近付くと、二歩下がる。

口端を上げて笑いかけると姿が消える。

アイツは、いつもそうだ。


「いい加減にしろよ」

「ご、ごめんなさいぃ」


ああ、あと怒ると泣く。


「チッ。悪かったな…じゃ俺は消えるわ」

「え…」

「なんだよその顔、俺に行ってほしくなさそうじゃねぇか」


そう言ってやれば、アイツは顔を真っ赤にして消え失せた。

隣で丹波の笑い声がする。

うぜぇ。


「さっかい〜またやってんの?」

「うるせーぞ」

「え、堺さんカヤさんに嫌われてるんスか?」


どこからか現れた世良に蹴りを一発。

痛い、酷いと騒ぐうるさい後輩にため息をついた。


「違うんだよなぁ世良」

「え、何がスかタンさん」

「カヤちゃんは堺が好きすぎてヤバいんだよ。なぁ堺」

「はぁ?」

「とぼけんなって。だってカヤちゃんがここの広報になって初めてあった日に…」

「おい、丹波!」

「カヤちゃん真っ赤になってストライーク!って叫んだんだよ。

無論堺を指差して」

「……」

「え、そうなんスか!」

「ったーんーばー…!」

「うわっ、堺が怒る!じゃ俺はこれで〜」

「あ、待ってくださいよタンさん!」


逃げ去る丹波に続こうとした世良の上着を掴んで「他言は無用だぜ世良ぁ?」と睨みを利かせればアイツは無言でぶんぶん頭をフってからぎこちない足取りで去っていった。

馬鹿なことしてないで俺も帰るかな。

丹波達とは逆の駐車場の方へ向かう。

すると人気のない駐車場の前でさっき消えたばかりのカヤが行ったり来たりしながら独りでなにかを呟いていた。

俺は立ち止まった。


「あぅぅ〜堺さん格好良すぎだよヤバいよまたにげちゃったぁぅ〜…こんなに大好きなのにもう、私の意気地なし!

次こそは…!」


なんだアイツ…そんなこと思ってたのか…

俺はてっきり、カヤが初日の失態を恥じてあんな態度をとるのだと思っていた。

俺は自分で自覚が有るくらい優しい人間ではない。

だからカヤが俺の容姿を気に入ったのだとしても好きになってもらえるだなんておもっちゃいなかった。

正直、近づけば逃げる距離感が空しくもあり、火がついたのは俺だけだという自覚を隠すためにアイツの恥ずかしがりは好都合だった。

だがもう止めてらやねぇ。

あんなカヤを前にして何もしなかったらそれこそ俺は馬鹿だ。


俺は意を決して、一歩踏み出した



 
届け、この気持ち





(カヤ!)
(きゃあ!さささ堺さん!)
(いいか覚悟しろよ…!)
(きゃぁぁああ止めて下さいその顔!私死んじゃいます!)
(なにしてんだあの二人ww)

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