短編GIANTKILLING
□ジーノ
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ジーノって、すごく魅力的だ。
高貴な感じがする。だからちょっと、苦手でもあった。
でもある日、ETUの選手を出待ちしていて
「吉田選手、お疲れ様です」っていったら
「いやだなぁ、ボクのことはジーノって呼んでおくれよ」って言われて、私はジーノの魅力に気が付いた。
以来、彼のファンである。
「カヤ」
「ん?」
「明日試合だね!」
「あ、うん!明日はジーノちゃんと出ればいいなぁ」
「まぁたあんたは、ジーノジーノって…」
サポ友のリンが呆れたように言った。
「ジーノの周りはすごく綺麗な女の人いっぱいじゃない。それになかなかサインもくれないし応援しにくくない?」
「んー、そんなことは…」
「サイン貰ったことあるの?」
「…」
「ほらみなさい」
「ちがうの!断られるのが怖くって言えないだけ!」
「おんなじよぅ」
ううっ…リンにはジーノの魅力は伝わらないようだ。
「まぁ、さ」
「うん?」
「あたし良いことおもいついたわよ」
「何?」
「あんたの恋路、応援しようじゃないの!」
「恋ではないのだけど…」
***
翌日の試合、私はいつもならユニフォームを着て、タオルマフラーを首に巻き、動きやすいような髪型で応援席に行くのだが…
「よぅし、これでいいわ。今日は応援して暴れないように」
「う…うん…」
今日はとびきりのおしゃれ(自分が自分に見えないようなレベルだ)をしてスタジアムに来ている。
時間はもう夕方で、出待ちをする頃には夜だ。リンの思いついた事というのは、「ずごくかわいい格好をしていけば(夜になれば顔だってよく見えないわよ、と失礼なことを言われたりして…)さすがのジーノだってサインを断ったりしないわよ作戦」というものだった。
私はあまり期待はしていないけれど…
リンは普段化粧をしない私で遊びたかっただけなんじゃないかと言うくらい、楽しそうだ。
あまりの変わりように羽田さんに挨拶したら「だれだこいつ」と言いたそうな顔で挨拶を返されてしまった。
ユニフォーム着てないのに真ん中で応援するのは気が引けるので、今日ははじっこでの観戦だ。
試合は珍しく(口に出して言ってはいけないけれど)ETUが押していて、なかなかの点差で勝つことが出来た。
とりあえず結果と、ジーノがスタメンだったことに満足していたけれど、そういえば今日はそのジーノにサインをねだらなくてはならないのだとふと思い出して、気が重くなった。
期待はしていないけれど、サインもらえなかったらショックだなぁ。
お手洗いで軽く髪型をなおされて、いつもの出待ちのところに行くとそろそろ選手が出てくるところだった。
そしてだいぶ選手が出てきて、一番最後におきまりのようにジーノが姿を現した。
試合の度に「お疲れ様」と声をかけるためだけに出待ちしているけれど、いつも以上に緊張する。黄色い声が上がって、どんどんジーノが近づいてくる…
もう、すぐそこに…
「――ジーノ!サインください!」
「ごめんよぉ、ボク今日はそういう気分じゃないんだよねー…」
「っ…」
ジーノはろくに私の方も見ないで、何かを探すようにきょろきょろしながら通り過ぎていってしまった。
ああ、やっぱり…
「カヤ…」
「いいよリン、気にしないで。協力してくれてありがとね」
そうはいいつつ、私はひどく傷ついている自分に気が付いた。