短編GIANTKILLING

□視線のその先
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私はETUで働いている。

自慢話の一つのつもりだ。

まぁ弱いのは分かってるし、東京Vで働いた方が自慢になるのは間違いない。

でも私はこのチームが好きだから、人から自慢だと思われなくても自慢だと勝手に思っている。

好きと言うのはチームもそうだけどサポーターも含めてだ。

いつも怖いけれど、本当はみんなチームの事が大好きなんだって私は知っている。

というのも、私は普段試合ではなくてサポーターを見ているからだ。

仕事と言うにも色々あるが働いているとどうしても試合はみられないものだ。

私の場合は特にそう。

私の試合中の仕事はサポーターの監視役だからである。

サポーターがなにかトラブルを起こさないように見張るこの役は、試合を見られないから不人気だ。

私は去年、一人この役に立候補した。

そして、いま私は恋をしている。

コールリーダーに。

同じ職場なら選手と付き合えばいいと友達にもよくいわれるのだが、私はどうにもあの「はたまさし」という人が気になるのだ。

そう言うわけで最近の私は羽田さんばかり見つめている。

まぁずっと見ていれば時々目が合うわけで、一人でときめいていたりする。

ちょっと恥ずかしいけれど大丈夫。

この先羽田さんと出会わない自信があるから。

悲しいけれど、かなり一方通行である。

彼は私のことなんて知らないのに、一人で思いを馳せているだなんて、羽田さんはずるいなぁ、とかいってみる。


***


その週は、たまたま同僚が風邪を引いてしまった。彼女の担当も試合が見られない入り口の担当だ。

そういうわけで私は人の出入りが激しい試合前、ハーフタイム、試合後だけそっちの手伝いに回されることになった。


「こんにちは」

「ありがとうございます」

「このチケットですとあちらのゲートになります」

「再入場ですね、はい。大丈夫ですよ」


いつも黙って見ているだけだからここは新鮮だ。

あ、いつも旗を振っている人だ。

あ、後人はすごく声が大きい人だ。

そういうことがわかるのも楽しいし、時々「あれ?いつもと違う人だけど…見たことあるんですよね」って声をかけてくれる人とかがいるのは嬉しかった。


「いつもあそこで見張りをしてるんですよ」

「ああ、なるほど!近くで見たらべっぴんさんだぁ!」

「いいですよぅそういうのは!」

「はっはっは!じゃ、がんばってな」

「はーい、ありがとうございます!」


元気なおじさんだなぁ。

やっぱりここのサポーターさんはいい人ばかりだ。


「なぁ、あんた」

「あ、はい!なんです…か…」


なにか不備があったのかとおもって、私は振り向いた。

…ら。


「こ、こんにちは」

「ああ…」

羽田さん…。



***


いつもみてぇに、俺は一番にスタジアムに来て段幕の準備をした。

今日の試合は勝てるのかどうか、それは俺たちサポーターにかかっているのだと豪語しているのだから今日も選手を全力で応援しようと気合いを入れる。

そしてゲートをくぐろうとしたことで、俺は見たことのある顔に出くわした。

俺は何も考えていなかったが反射的に声をかけていた。


「なぁ、あんた」

「あ、はい!なんです…か…」

「ああ…」


なんで声をかけたんだろうか。

別に用事もないので俺は返事を返したまま黙り込む。

目の前にいるクラブスタッフの女性は、いつもならサポーターの見張りをしているスタッフだった。

それが今日は入場ゲートであいさつをし、チケットの確認をしていた。

俺は彼女を一方的に知っている。時々目が合うようなきがして、いつしか気になっていた。

情けない話、一目惚れとかいうやつと近いな。


「あ、あのコールリーダーさんですか」

「ああ、俺は羽田ってもんだ」

「羽田さんですか!いつもご苦労様です」

「なぁ、あんた」

「はい?」


いっそ、聞いてしまおうか。

俺と目が合っているのに気が付いているかどうか。

でも渋って今日を逃せば今度はいつ近くで話せるかわからねぇ。


「いつも、目が合うの気が付いてたか?」


彼女は目を見開いて、赤面した。

なんだか俺まで赤面しちまった。


「わ、わたしカヤといいます」

「…カヤ…さん…」

「あの、連絡先を、おしっ、教えてくださいません…か…」


俺は、硬直して「ぜ、ぜひ」なんてガラにもない返事を返した。



いつも見える君







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