短編GIANTKILLING
□達海
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隣町に、大きな騎士団があって私はその訓練を見に行くことが少しだけ楽しみだった。
私の街はあまり栄えていないけれど、村人達も皆優しくて平和だ。
騎士団なんて無縁なんだけれど、無縁だからこそ興味がわいたのかもしれないな。
休日に買い出しに出かける帰り道、いつも柵の前から訓練場をそっと覗いていた。
そんなある日。
その日も私は休日で買い出しのために隣町を訪れていた。
柵に手を突いて訓練の様子を眺めていたら、柵の向こう側にいる騎士達のうちのひとりが、私のすぐ近くに座った。
柵越しというだけで腕を伸ばせば髪に触れられるだろうという距離だ。
そんな近くで騎士を見るのは初めてで、私は少しばかり緊張してしまった。
騎士は私が居ることなんか気が付かない様子で地べたに座り込んでいる。
「訓練見るの、好きなの?」
だからそう声をかけられたとき、私はその声が騎士のもだとすぐには分からなくて少し間をあけてしまった。
あわてて「ちょっと興味が」と答えれば、騎士はにひっと笑みを浮かべて振り向いた。
私はその騎士に見覚えがあった。
「――いつも座っているひと人だわ」
「お。俺のことわかんのー?」
「いつも向こうに座っているのが見えてるから。あなたは訓練が嫌いなの?」
「んーん。俺は一番偉いから訓練しなくてもいいんだ」
「ふぅん。よくわかんない」
一番偉いなら、一番頑張らないとじゃないのかな。
一応初対面なのでそういった言葉は喉の奥にひっこめておく。
「お前は、どこの村の娘?このへんじゃ見かけない顔だ」
「隣街。休日にはこうして買い出しに」
「隣町か。あの街はね、俺も好きなんだよ。俺の故郷とよく似ていて」
「似ている?」
「うん。人の温かい感じが、なんとなくね。
あー、あとおいしいリンゴの有る村だったら更にいいな。
お前の村にはリンゴはできるのか?」
「秋にはね」
「じゃあ、ますますそっくりってワケだ」
ふぅん。
「ねぇ、私そろそろ行くね」
「おぅ。来週もよってけよ」
その一週間、あんな一瞬会話しただけなのに私はあの騎士のことが頭から離れなかった。
次の週も、その次の週も私は彼に会いに行った。
そういう生活が少し続いた。
いまだ彼のことで私が知ることと言えば、達海という名前であるという事だけだ。
夏が終わり、切ない季節になった。
そろそろリンゴの実る頃だ。
あの騎士――達海が、以前私の街が故郷に似ていると言ったことを思い出して、村でとれたリンゴをもっていってあげることにした。
手に抱いた紙袋にお財布とリンゴをつめて、隣町まであるいた。
このリンゴ、喜んでもらえるといいな。
がらにもなくちょっと緊張した気持ちで、心持ち早歩き。
だけど、街に入った瞬間絶句した。
そこは恐怖と混乱に満ちていた。
知らない国旗を掲げた騎馬や歩兵が町中で、住民を脅すように進軍してきていた。
そういうの、無縁だと思っていた…。
敵は大人数ではないから、ここまで忍ぶようにやってきたのかな。
そんなことはどうでもいいけれど、恐怖で足がすくむ。
目の前で、人が斬られて血が飛び散った。腕の中のリンゴがごろごろと転がり落ちた。
「――っつみ…達海っ…」
助けて。
この街に頼れる人は、彼しか浮かばなかった。
次の瞬間、目の前にいた兵士はばたりと倒れていた。
私は振り向いた。
そこには、馬にまたがった彼が剣を掲げて立っていた。
「行けぇ!」
大声で叫べば、その後から騎士達が走り出し一気に敵の兵士達を蹴散らしていく。
私は放心してしまった。
達海は手慣れた様子で馬から下りた。
「ほら、おとしたぜ」
私の抱えた袋に、リンゴが戻ってくる。
「達海…闘わないの?」
「言ったろ?俺は一番偉いからいーの。
あいつらには指示を出してあるしね。
たいした数じゃないし、まかせておけば大丈夫――夏木前出過ぎだ!」
「すっ、すんませぇん!」
もじゃもじゃ頭の騎士さんが、デタラメにも見える剣さばきでつっこんでいくのを達海は制した。
一番偉いって、そういうこと? 隊長?
「達海って――」
「おい達海さん。あんまり勝手に俺の部隊を動かさないでくれるか」
「おー、やっと来たな村越ー!」
「あんたが好き勝手やってくれるおかげで色々と手間がかかったんだ」
え、こんどは誰だ。
後から出てきた黒い馬に乗った騎士は、不機嫌を隠そうともせずにそう言った。
「あ、ちなみにコレ隊長ね」
「え、達海一番偉くないじゃん」
「まったくだ」
と、村越さんも敵の討伐に走っていってしまった。
すっかり調子抜けてしまい、足の震えもいつのまに止まっていた。
「見てなってカヤ。
俺が配置したんだから、あいつらすぐに敵たおして帰ってくるって」
「じゃあ…軍師…?」
「ご名答!いやぁ、ここで食い止められなかったらカヤの村にまであいつら来ちゃうんじゃないかと焦ったけど、どうやら大丈夫そうだ」
「なによそれ…」
「あ。リンゴ食っていい?」
「あんたねぇ、他の人が闘っている中一人リンゴとは…」
「いーんだよ俺の仕事はもう終わったから。
それにこれ俺にもってきてくれたんだろ?」
「…そうだけどさ」
「ん!うまー!こりゃますますカヤの村も守ってやらねぇとだな。」
本当にこの人って軍師なのかな。
最初はちょこっと疑ったけれど、だんだん分かった。
彼は仕事放棄してのんびりしているのではなくて、騎士達のことを信じているんだって、その目を見れば分かった。
「ふふっ、あなたが軍師の限りは大丈夫そうね」
「リンゴの話?」
「…隣町=リンゴなわけ?」
「あんだよー、そんな不機嫌そうな顔しなくたって、カヤの村もカヤのことも、俺が守ってやっからさ」
「俺じゃなくて、俺の配置した騎士が、じゃない?」
「つめてぇなー」
今はまだ信用ならないけど、まぁいつの日か。
いつの日かこの人が私を守ってくれる人になったら素敵かもしれないな、なんて。
私はずいぶんと安心しきった顔で、平和に戻っていく街を眺めていた。
いつの日か
後書き
第一弾は軍師達海さんでした、いかがでしたでしょうか^^
一応裏設定というか、まぁ原作通りですがもう少し前までは国の英雄として戦ってたんですけど、ある戦いで負傷して軍師になったのがこの軍師達海です!笑
まぁ、なんで急にこんなこと始めたのかというと、私元々騎士とか好きでして。
もし自分が兵士だったらどんな先輩騎士がいいかと想像していたら堺さんが浮かんできたのでこのシリーズができました。
なのでのちほど堺さんもできます!
そして他のキャラもふやしてきます!