短編GIANTKILLING
□騎士堺
1ページ/1ページ
5年間続いていた戦争が、ようやく終わりを告げた。
「カヤ!今日帰ってくるって」
「え?」
「終わったのよ!ようやくこの戦争が!」
興奮したように部屋に飛び込んできた友人に、私は呆けた顔で「あら、そう」なんて素っ気なく返してしまった。
「なによ、うれしくないわけ」
「い、いえ。うれしいわよ?
ただこの5年間、騎士団も行って帰っての繰り返しだったじゃない…本当に終わったのね?」
「ええ!今回の会戦で向こうも降伏を認めたらしくて」
「そぅか…え、じゃあいつ戻るの!?」
「もうすぐよ!なんか伝令がうまく回ってなかったみたいで、すぐそこまで帰ってきてるらしいの!ね。行くわよね?」
「う、うんちょっと待って」
す、すぐ帰ってくる!?
急に実感がわいてきて、おどろいてあたふたしちゃう。
「そんなに焦らなくてもまだ一時間はあるから。ほら、この前一緒に買った服に着替えなさいよ」
「え、いいよそんなめかさなくても」
「ダメよ!だって堺さんも帰ってくるのよ?」
「さ、堺さんは関係ないって!」
「関係あるし嘘付かないの!はいはい着替えた着替えたー!」
「ちょ、ぬがさないでぇぇえ!」
堺さんが、帰ってくる。
いや、別に堺さんとはどうと言うこともない。
ただ私が片思いを続けている騎士が彼だと言うだけだ。
もちろん、堺さんが帰ってくるのは嬉しいけれど…まだ、生きていると決まったワケじゃない。
それに…この国では戦争終結の帰還時のパレードで、騎士は自分の一番大切な人を馬に乗せて歩くというなんともロマンチックな風習があって…堺さんの後に、だれか女性が乗っていたりしたら…ああ、どうしよう。
色々な感情が混ざり合って、自分でもよく分からなくなる。
とりあえず着替えよう。
どっちみち国の人として騎士達を迎えなくちゃいけない。
戦争を終わらせて国の安全を守ってくれた彼らをせめて迎えなくては…。
街に出て行くと人々はみんな大通りに面して並び始めていた。
私は友人に手を引かれるがままに最前列に来てしまった。
そうして少し待つと、高らかにラッパの音が聞こえてきた。軍団が帰ってきた合図だった。
みんなは歓声を上げた。
最初に入ってきたのは永田将軍。
そしてそのしかめっつらの後を村越隊長と軍師の達海さんがついて行く。
その後には馬にまたがった騎士達が二列に並んで行進してきていた。
皆疲れ切ってはいたけれど国旗を高々と掲げて、誇らしげに歩いていた時々民衆の中から女性が出てきて、騎士の後にまたがって幸せそうに笑っている。
そわそわした気持ちでその行進をどんどん後へたどってみていくと、輝く金髪に目を奪われた。
堺さんだ!生きていた!
「よかった…堺さん生きてた…」
私は先刻までの不安なんて忘れて、泣きそうになりながら喜んだ。
「堺さん!」
堺さんの馬がすぐ近くまで来たとき、私は思わず声を上げていた。
堺さんが気が付いてこちらを見る。
私はただ彼が生きていることが嬉しくて手を振った。
すると、堺さんが手招きをした。
手招き…私にしてる…?
「カヤ、あんたお呼びじゃない!
はやく行きなさい!」
「え、わ、わたし…!?」
「ほら!はやく!」
友人に背中を押されて、私はよろめきながら堺さんの前に出た。
堺さんが手を差し出していて、私は戸惑いながらその手を取った。
その瞬間に、私は馬上に引き上げられていた。
「わっ」
「おら、しっかり捕まっとけ」
「さ、堺さんっ…!」
私…堺さんの後にまたがって…!
「え、ちょ、どういうことなんですか!」
「あ?意味分からずに乗ったんじゃねぇだろうなぁ?」
「い、意味は知ってますよ!だから聞いたんじゃないですかっ」
堺さんは隣を行進しているにやけ顔の丹波さんに一瞥をくれてやりながら「はっ!」と声を上げた。
「鈍感にもほどがあんぜ。お前のこと一番大事だと思うから乗せたんじゃねぇかよ!」
「ふぇえっ!?」
「なんだ、文句あんならおろすぞコラ」
「えぇえ!?」
「堺、もっと優しくしてやれよー」
「うっせーぞ丹波ぁ!」
堺さん、私のこと…
「うっ…ぐすん」
「あー!堺が泣かせたー!」
「はぁ?!お、おい何泣いてやがんだカヤ」
ああ、どうしよう。涙止まらないよ
「だって、堺さん生きててくれて、私のこと、後にのっけてくれて、なんか夢…みたいっ」
顔を見られるのが恥ずかしいので堺さんの背中に額を当てた。
「夢じゃねぇよ、馬鹿」
肩越しに振り向いた堺さんは、優しいキスをくれた。
周りからの冷やかしに二人して赤面しながら、私は堺さんの背中に抱きついた。
一番大切な人
あとがき
ああ!堺さんが騎士だったらメッチャかっこいいと思ういやサッカー選手でも全然格好良いんだけどね!