短編GIANTKILLING

□騎士赤崎
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 街の中心にある軍団の騎士達は、とても気持ちの良い人たちだ。

幼い頃からこの街で育った私はけっこうなお転婆娘で、よく騎士達にお世話になったものだ。

貴重な休憩時間なのに体力を惜しまずいっしょに遊んでくれたり、ちょっと遠出して迷子になったところを助けて貰ったり。

お母さんにもご迷惑をかけるんじゃない、っていわれたけどついついその優しさに甘えてしまう。

そうして大人になった私は、現在武器屋を営業中だ。

いままでは私がお世話になったから、こんどは私が少しでも役に立てればいいなぁなんて。

いまでは丹波さんや石上さんなど常連さんが用もなく来てはおもしろい話を聞かせてくれたりして、それが一つの楽しみだったり。

「カヤちゃーん!」

「あ、丹波さんいらっしゃい」

「聞いてくれよー!堺が俺のこといじめんだよ!」

「それはまぁ、大変でしたね」

笑いながらいつもみたいに軍団の話を聞いた。

最近はまた新しく若い人が入ってきたみたいで、丹波さんはその人のことをたのしそうにお話しする。

「そんで赤崎がさー、黒田にハゲハゲって」

「うわぁ、その赤崎さんって人勇気ありますね。お会いしてみたいです」

あの黒田さんにはげって言えるなんて…心底すごいと思う。

「あ、それならそのうち来ると思うよ」

「え?」

「なんかタンさんがこの店赤崎に紹介してたから」

「それはそれは、ありがとうございます」

「店の雰囲気よりカヤの顔のこと細かく説明してたけどな」

「え、なんですかそれ」

「だってカヤちゃんかわいいからサトシつい話しちゃったんだよ」

「丹波さん一人称名前にしてもかわいくないですよ」

「そんなこというなよー!あ、そうそう。そんで赤崎だけど――」

結局、お二人は赤崎さんの似顔絵を描いて訓練に戻っていった。

それにしてもこの似顔絵ひどいなぁー…。

すごく意地悪そうな顔の人で、眉は薄くてつり目で。

多分本物は…さすがにここまで皮肉たっぷりの顔ではないと思う。

多分。

ついまじまじとそれを眺めていると私の上に影が落ちた。

そうだ、まだ営業時間だからこれを見ている場合じゃないんだ。

お客さんかどうか確かめようと顔を上げて、吹いた。

「っ…」

「……あんた初対面なのに失礼じゃない?」

「いっ、あの、すみませっ…」

我慢できずに声を上げて笑うとそのお客さんは――いいえ、赤崎さんと言った方が良いかな。

赤崎さんは不機嫌そうに眉をつり上げた。

それがさらにこの手元の似顔絵とそっくりで。

「あっあの失礼なことして、ごめんない。この似顔絵が下手くそなのによく特徴を捉えていたものだから」

「は?あー!なにやってんだよタンさん!」

似顔絵を見せると赤崎さんは声を上げて憤慨した。私は笑みを押さえながら「そういえば、来店のご用は?」と問いかける。

赤崎さんははぁっとため息をついた。

「軽めの剣おいてない?」

「ああ、それでしたらちょうど先日お取り寄せしたんですよ。

直接見て仕入れに行ったんですけどね、おかげでなかなか使いやすそうなものがそろったんです」

少々お待ちくださいと声をかけ、店の奥にしまったままの剣の束をかかえてもってくる。

軽い剣とは言うけれど結局は金属だし、何本もいっぺんだと非常に重い。

それをカウンターの上にどさっと置いてから布を開いた。

「どうでしょう。ざっと十本はありますけど、あとは持ちやすさとか長さを見ていただければ」

「ふぅん」

剣をあさる赤崎さんの手は、やっぱりお若いなぁと思う。

うちは固定客が多く、若いお客さんは少ないからその若々しい手は新鮮だ。

手のひらにはマメのつぶれたあとがある。

この手が、これからマメなんかつぶれないくらいたくましくなっていくのかと思ったらなんだか不思議な気がした。

「なぁ」

「あ、はい。なんですか?」

「これ…どれがオススメ?」

三本まで絞ったらしい。なるほど剣を見る目は有るようだ。

「そうですね、右のは一番軽いですし、左のは持ち手の部分が――」

「そうじゃなくて」

「え?」

「あんたは、どれが一番好きなんだよ」

よくわからないまま、だけど私は真ん中の剣を指さした。

「これは、仕入れに行ったとき一番最初に目に入ったんです。

使い勝手も良いだろうし、形自体が好きなんです。赤崎さんにも、似合いそうですしね」

「ふぅん。…じゃあそれ、俺が買っても良いか」

「え、あ、もちろんですよ!ありがとうございます!」

お持ち帰りようの袋に剣を包んで、代金をいただく。

「まいどです。手入れの道具とかは大丈夫ですか?時々磨かないとさびますよ」

「いい。そんときにまた来るから」

丹波さん達がよく「カヤちゃんまたねー! って言ってくれるときと、なんだか違う嬉しさがこみ上げてきた。

なんだか、不思議な感じ。

「じゃあね、カヤさん」

「っはい、また!」



 貴方に似合うもの


あとがき
このあとこの店に通う赤崎さんはタンさんたちと鉢合わせないようにすごく気を遣いそうです笑

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