短編GIANTKILLING
□バレンタイン
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この時期になると、さすがスポーツ選手とだけ有りクラブハウスには大量のチョコレートが届けられる。
もちろんサポーターからである。
それ以外にも練習場まで来て渡していく人がいるのでタチが悪い。
タチが悪いというか、毎年最も被害を被っているのは世良に違いない。
チョコレートの数では赤崎に負けて嫌味を言われるし、イライラ絶好調の堺の八つ当たりを受けるのもまた世良だからだ。
おかげでバレンタインの世良はげっそりしている。
堺がこもイライラして貧乏揺すりをとめられないのは無論、彼が健康主義者だからである。ラーメン一杯、ポテトチップ一袋でも顔を鬼にするような男にいくつものチョコレートが届いたとなればただでは済まないだろう。
だがサポーターに当たるわけにも行かずイライラはいつも以上のスピードでたまっていく。
「堺もさー、恋人つくればいいんだよ!そうすればチョコの数一気に減るって!」
悪びれなく言う丹波に堺はじろりと目を向けた。
「うっわ怖いよ堺!」
「っせぇぞ丹波ぁあ!」
「きゃーやめて良則ったらん!」
「……なにしてんスか二人とも」
ふーっふーっと怒った猫のように息を吐く堺は、足音を荒くしながら更衣室に去っていった。
その日の練習はやたらと人が多かった。
練習後の堺は念入りにダウンを取ってから更衣室へ向かう。
この練習場から更衣室までの道が出待ちの道になっており、堺はそこを走り抜けたい気分になった。
だがサインを貰いに来ている小さい子供もいるしそうはいかない。
いつもどおりお疲れ様ですと声をかけながら歩き出した。
何人かが堺を引き留めた。
堺は決して世羅には向けないような笑顔でそれを受け取り礼を言った。
そしてうんざりしながら通路を抜けようというところで、最後にもう一度呼び止められた。
またか、これで最後だろうなと思い立ち止まると、そこにいたのは常連のサポーターだった。
「すみません何度も引き留められてるのに。
汗冷えちゃいますよね」
苦笑した彼女に堺はどこか安心感を覚えながら大丈夫だと言った。
いつもいるサポーターを見たせいかなんだかほっとしたのだ。
「一応世間はバレンタインのようですので、どうぞ」
「ありがとうございます」
今度は何のチョコだろうかと受け取ると、それはチョコにしては大きくて軽かった。
「あ、ただのタオルです!堺さん前に甘いものはすきじゃないとおっしゃっていたし、チョコは十分だと思うので実用的なものを、と」
「それは…たすかる。ちょうど買い足そうと思ってたんだよ」
「それはよかったです」
選手のことを考えた気遣い。堺はそれに心が温まった。
「なんかよ、あんたの顔見ると安心するな」
「え」
「いや、なんでもねぇ。ありがとな」
「いえ、明日も頑張ってください」
心なしかすこし赤い顔をした彼女が手を振る。
堺もそれに帰しながら更衣室へ入っていった。
無論、後からニヤニヤしながらついてくる丹波は蹴り飛ばして。
バレンタイン・デー
後書き
これを夢小説に分類して良いかはいささか怪しいですね、すみません。書いてから思ったけど女の子わざわざサポーターにすることなかったなぁ。とりあえず堺さん、好きだ!