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□不器用な君
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『…A弥ー?』
「…何?」
『いや、何?じゃなくてね…』
眠そうなA弥の前に、これ何?と言って私が持ち上げたのは一冊の本。
表紙には○○神話と書かれていて、禍々しい謎の怪物が描かれている。
これを先程いきなりはい、と渡されたのだから戸惑うに決まっていた。
けれども、A弥は私の態度の方こそ不思議とでも言うように首を傾げて、
「……?面白かったよ…?」
『私が聞いてるのは感想じゃないよ!』
A弥はこういうの好きかもしれないけど、私は正直怖いのだ。
しかも表紙の絵は、うにょうにょしていて何だか気持ち悪い。
再度絵を見てうへーとした顔をしていると、
「…面白い、から…夢羅にも読んでほしくて…」
見れば、A弥は少ししょぼんとした顔をしていた。
A弥はあまり顔には出さない方だから分かりづらいけれど、これは落ち込んでいるときの表情だった。
ああ、と私はそこで気づいた。
A弥は懐いた人には自分の興味のあるものを共有してほしがるんだったっけ。
そうすれば話し下手なA弥でも話ができて、もっと仲良くなれるから。
事実、私と仲良くなったのも怪談に怖がっていた私を別の説で宥めてくれたのが理由だった。
つまり、この本はA弥にとっては一種の親愛の印だったのかな。
なんて分かりにくいやり方なんだろう。
そんなところも可愛くて好きなのだけれど。
『…読んでみるね、ありがと』
私が少し苦笑しながらもそう言うと、途端にぱっと明るい顔になる。
…と言っても、他の人からしたら僅かな変化でしかないのだけれどね。
でも私には十分なほどA弥が喜んでいるのが分かった。
「…読んだら感想聞かせて!」
『分かったよ、A弥』
ぽんぽんと撫でるようにして頭に手を置けば少しむすっとした顔になる。
すぐに、ごめんごめんと謝ればまたいつもの顔に戻るんだけど。
そんないつも通り変わらないA弥をみて和やかな気分になる私なのだった。