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□苺雨
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苺雨

※マサ♀side

この話は自分がまだ小学生だったときのお話。

その日は雨がザーザーと降っていて、自分はランドセルを背負ってぼうぜんと立ち尽くしていた。

「………」

今日も雨。昨日も雨。一昨日も、その前も……

「……帰らなきゃ……」

早く帰らないとおかあさんに怒られる…。でも、びしょびしょはもっと怒られる。

……でも、……走って帰れば……

「……よし…」

走って帰ろう。

そして、学校の玄関を飛び出した。

足場は悪く、視界も悪い。風邪も強く、とても走りづらかった。……今日のスカートはお気に入りだったのに

……なんて思っているうちに落ちてた木の枝が足にひっかかり、転んでしまった。

……おかあさんに怒られるなぁ……
どうしよ……

そんなことを考えていたら、頭上からずっと降っていた雨の感触がなくなった。

「……なにしてるの?風邪引くよ?」

ふと見上げるとピンク色の髪の毛の男の子が傘を差してくれていた。

「…………」

「……同じ学校かな…君何年生?」

「……3年」

「じゃあ、一個下だ。俺4年だから…」

「そ、そうなんですか…」

……早く帰らないと、怒られるというのに……

「あ、はい。捕まって」

手を伸ばされたので、その手に捕まり、なんとか起き上がれた。

「……ありがとうございました…」

「どういたしまして」

……男の子なのに……綺麗な人…

「……じゃあ……」

早く帰んなきゃ…

「……あ、待ってっ!」

急にポケットのなかから小さなものを取り出した。

「これあげる」

渡されたものは苺の飴。

「……くれるの?」

ピンクの男の子は笑って頷いた。

「女の子って甘いもの好きでしょ?だからあげるっ!」

「あ、……ありがと…//」

……なぜか、この人に会っただけでなんかとても恥ずかしい気持ちでいっぱいになっていた。

男の子だからかな…って思っていたけども、クラスの男の子と話しているのとは違う感じで……今まで感じたことのない感覚だった。

「じゃあね」

ピンクの男の子は傘を置きっぱなしで行こうとした。

「あ、………あの…」

「……あぁ、その傘貸してあげるよ。君、傘ないんでしょ?また転ぶと危ないし。」

「………でも…」


「……そんなに心配なら、明日にでも返してくれればいいからさ、同じ学校ならまた会えるでしょ?」

「…………」

頷いた。
『また会えるでしょ?』
って言われたからだ。

「じゃあ、またね」

「……あ、……ありがとうございました…」

そのままピンクの男の子は走ってしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

そして、あれから何年がたっただろうか。

ピンクの男の子はそのまま親の転勤で引っ越してしまったようだった。

それに気づいたのは次の日の放課後。ピンクの男の子のクラスメイトが教えてくれた。

結局、名前もわからなかった。唯一の手がかりはピンクの髪の毛。

でも、そんな手がかりだけで当てはまる人だってたくさん出てくるだろうし、ましてや何年も前のこと。

あっちは忘れてるかもしれないし、髪色だって変わっているかもしれない…。

…そんなことを考えながら廊下を歩いていると、ふと窓の外が見えた。

………え、嘘でしょ?…

今日の降水確率低かったよ?
じゅんじゅんも傘はいらないっていってたよ?

………どうしよう、傘持ってきてない

もう、走って帰るしかないよね。

心の底では祈ってた

………もしかしたら、……あの人が来てくれるんじゃないかって…

そんなこと…あり得ないのに…

上の空で走っていたら、足が滑って、水溜まりの水滴がスカートにはねてしまった。

…最悪だ…

「あーあ……怒られる…かな…」

こんなときに……あの人が来てくれればいいのに……

昔みたいに……あのピンクの髪の毛の青い傘の人が……

その時、急に体に降りかかっていた雨が止まった。

上を見上げてみたら……青い傘が差されていて……

「……お前、なに泣いてんの?」

声のしたほうへ振り返ると、部活の先輩が自分に傘を差してくれていた。

「………なんだ…先輩か」

「なんだとはなんだ。なんだとは。折角、先輩が天気予報をばか正直に信じた後輩に傘を差してやってるのに」

「……信じちゃ悪いんですか?…」

「…ふつーはこの雲見ればわかるだろ」

確かに今朝は雲ってたし、雲行きも怪しかったけど……
だからって、じゅんじゅんを疑うのは……

「…どーせ、お前のことだから、じゅんじゅんを疑うのはちょっとーってとこだろ」

先輩は鼻で笑ったので、即座に言い返した。

「……バカにしにきたんですか?」

「…まーまー、そんな怒るなって」

どうみてもバカにされたようにしか思えない。

「ほら、これやるから」

先輩は、ポケットのなかから何やら取りだし、こちらに渡した。

「………」

……苺飴だ。しかも、あのときと同じ、大玉の

「……くれるんですか?」

「女の子って甘いもの好きだろ?だからやるよ」

……あれ?この台詞って……

「……………」

「……あー……ちょっと昔の話してもいいか?」

「………どうぞ?」

「…昔さ、雨の中でびしょ濡れになっていた女の子に恋したことあってさ。」

「………」

「……お前と同じで、空色の髪の毛で、青いスカートでさ、幼いながらもその女の子のこと綺麗だなぁ…って思ったんだよ……一個下だったんだけどさ…、その子にまた会いたくて、その……傘をそのまま貸したんだ…また会える口実がつくりたかったんだ。でもさ、その日の夜、急に親が転勤になって、次の日に学校行けなくなってさ。」

「………」

「……あれ以来、その子とは会ってないし、手がかりは空色の髪の毛と青い傘だけになってさ……」

………もしかして……あのときのあの人って……

「………先輩……自分も、幼い頃に、今の先輩みたいに、雨のなか助けてくれた人がいて……また会いたくて、次の日にその人の教室にいっても会えなくて……」

「な…んだよそれ…」と先輩は驚いて目を丸くしたけど、すぐに笑った。

目から涙が出てくる。
先輩だ……あの人は……先輩だったんだ…

「…やっと……会えた……」

気づくと自分の体は先輩に包み込まれていて、体は雨に当たっていた。

先輩が差していた傘はそこらへんに転がって、二人ともびしょ濡れになることなんてお構いなしに、ただ、ただ抱き合っていた。

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