main

□苺のショートケーキ
1ページ/1ページ




その日は雨が降りそうなくらいどんよりとした雲がかかっていた。

休日だからとのんびり11:00近くまで布団の中なのもいつものこと。

今日も俺は布団の中でもう一度寝ようと試みた。

しかし、何故だろうか。
こう何もすることがないと何かしたくて仕方なくなる。

ふっと視界の隅に見えた本棚。

………そういえば、最後にあの本棚の整理をしたのはいつだったろうか…

前に神童から借りた小説も、倉間から借りた漫画もあの中の何処かにあるのだろう…

「………片付けるか。」

俺は本棚の前へ行き、中に積まれたたくさんの本を取り出す。

すると一冊だけ、落ちてきた本があった

手にとって確かめてみる。

その本は昔、母が使ってた料理の本で、中には昔俺が大好きだったオムライスやら鳥の唐揚げなどのレシピがたくさん書いていた

……だが、何故この本が部屋にあるのだろうか…

そんなことを思いながらもペラペラとページをめくっていくと…

「………懐かしいな…」

小さい頃によく作ってもらったいちごのショートケーキのレシピがあった。

ふと材料を見てみると、どれも今家にあるものばかりだった。

いちごかぁ………

ふと一人の後輩を思い出した。

………狩屋…いちご好きだったよな………

俺の後輩の一人。狩屋マサキ

かなりのいたずら好きで、憎たらしい所もあるが、根は優しく、ただ素直になれないだけという猫みたいなやつ。

………狩屋にいちごのケーキを作ってあげたら…喜ぶだろうか……

一緒にご飯食べて、一緒にケーキ食べて、一緒に部屋で映画でも見てみたいな……

ホラー映画とか見せたら強がって、ほんとは怖いくせに意地張るんだろうな………

そんなことを考えていると、ふと狩屋に会いたくなった。

………メールしてみようか…

俺はケータイを手に取り、狩屋にメールを送ってみた。

ーーーーーーーーー
受信者:狩屋

件名:なし

本文:家に来ないか?いちごのケーキごちそうするぞ。

ーーーーーーーーーー


送信して数十秒程度で、返事が帰ってきた。

ーーーーーーーーー
送信者:狩屋

件名:Re

本文:今行きます。

ーーーーーーーーーー

え、今?!

………周りを見渡してみた。

散らかしたままの本。
脱ぎ散らかしたままの寝巻き。
朝出た形がそのまま残っているベッド。
途中放棄した整頓されていない本棚。


とにかくこの部屋は汚い
………この汚い部屋に狩屋を呼ぶ…のか?

頭の中をたった一言だけが巡る。

『大急ぎで片付けろ』

………はい


まず部屋の本棚の整頓から…

「ってわぁああぁああぁあぁぁ!!」

本棚の中の本という本が一気に落ちてきて

「った………」

「………何してるんですか…?」

本の下敷きになっている俺を部屋のドアの方で見ている人がいた。

「狩屋?!」

その人物は紛れもなく狩屋だった。

「………どうしてここに?…」

狩屋は俺の近くまできてしゃがみこんで

「ピンポンを押しても聞こえてないのか全く来る気配がないあげく鍵は開いてて、更にすごい物音がしたので慌てて入ったんです。」

「………すみません…」

俺は本の下から頭を下げた。

「………それはそうとして……何してたんですか?」

俺は汗をかきながらひきつった。

「多方、俺を呼んだ後に部屋の片付けをしようとして本棚を整頓しようとしたら本の下敷きになってしまったってとこですか?」

「おま、…なんでそれを?!?!」

「………図星なんですね。」


「…はい」

なんだか非常に申しわけない気持ちになってしまう…

「はぁ…」

「………すみません」

狩屋は立ち上がると俺の上の本を巻数順に並べ始めた。

「ブックスタンドとかあります?」

「へ?」

「本の端におく立てるためのやつですよ。俺も手伝いますから、早く片付けて、台所行きますよ」

「あ、…あり…がとな」

狩屋は綺麗好きなのか片付けがとても上手く、俺があんなに苦労した本の整頓をあっという間に終わらせてしまいそうだ。

「……先輩の本って…漫画ばかりですね…」

「そうか?……まぁ、真面目な本とかは神童が貸してくれるし、参考書は速水か先輩に借りてるしな。」

「……あ、この本だけ、なんだか他と違いますね」

狩屋が取り出したのは
先ほどの料理の本だった。

「あ、それは出しといてくれ。今使うから」

狩屋はその本をまじまじと見ると

「……意外ですね…先輩が料理なんて………」

「あ、それ俺のじゃなくて母さんの…」

本を開いた狩屋はページを開いていくとあるページに釘付けになったようで、ずっとそのページを見ていた。

「……いちご…」

やっぱり思っていた通り、狩屋が見ていたページはいちごのショートケーキのページだ。

「メールで言ったケーキって実はこのことなんだ。」

そういうと狩屋は本から目を離し、輝かしい目で俺を見た。

「そこにかいてる材料がたまたま家にあるから作れそうだなーって思ってさ」

そういうと狩屋は本のページを見直して「あー」と納得したみたいな声をあげた。

「……先輩お昼食べました?」

「い、いや…?」

「さっき起きてきたばかりとか…」

こいつは探偵かよ。
さっきからほとんど当たってるし。

狩屋はため息をひとつつくと

「嫌いなものとかあります?」

「え、いや、特には……」

「……先輩」

「…は、はい」

「台所を貸りていいですか?」

「え、あ、あぁ。」

そう言うと、狩屋は台所へと歩いて行った。

しばらくすると、
トントン
グツグツ
ジューという音が聞こえてくる。

チラッと見てみると黄色いエプロンをつけて、料理をしていた。

どうやら、エプロンは自前のものらしい。

「できました。」

しばらくすると、テーブルの上にはナポリタンと小鉢に入ったサラダ、わかめスープ、が置いてあった。

「よかったらどうぞ。」

見た目も香りもパーフェクト。
そして、俺自身、とても空腹だった。

「…いただきます……」

パクっと一口

うん、文句なしの旨さだ。

「………その…味の方…どうですか?」

心配そうに訪ねてくる狩屋に笑顔で答える。

「すっっごいうまい!!」

「…それならよかったです…」

狩屋はにこっと笑った。

「…あ、先輩のお母さんの本にあった苺のショートケーキも作りましたよ」

そう言うと、ぽんと冷蔵庫からケーキを出してきた。

「……なんていうか…お前、手先器用なんだな……」

「これでも料理と掃除だけは自信あるんです」

そう言うと、ぷいっと顔をそらした。

若干その顔はほんのり赤く染まっている。

「お前さ……いっそのこと嫁に来れば?」











狩屋の顔がショートケーキの苺のように真っ赤になるまで残り0.5秒。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ