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□友達以上恋人未満
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これは俺がマサキを気になっていたころの話。

その日は随分と温かい日で、学校の中庭では猫が日向ぼっこをしていた。

「にゃあー…」

俺はその猫を抱き抱えてみた。

「ふにゃっ!?」

猫はびっくりして、逃げていった。

そのうち狩屋も、あの猫のように逃げてしまうのだろうか。

俺がそんなふうに思っていると、当の本人がやってきた。

「剣城くーんっ!!」

両腕にはいちごミルクのパックとコーヒー牛乳のパックがひとつずつと、パンの袋が三つ入ったレジ袋が抱えられていた。

「ごめんっ、これがなかなか見つからなくてさー……」

そう言うと、パンの入った袋のなかからいちごジャムとクリームとカスタードとメープルシロップとカットされたいちごの入ったパンを取り出した。

「……ごちゃごちゃだな。…それ」

ただ単に甘いものを詰め込んでいるだけに見えるが。狩屋の目当てだったパンはどうやら、このごちゃごちゃしたパンらしい。

「だって、俺の好きなものばっかり入ってるんだよ?すっごい食いたかったんだっ♪」

よくみると、他のパンの袋も同じようだ。

「あ、もちろん、遅くなっちゃったお詫びも買ってきたよっ!」

そう言うと、袋の中からさっきからチラチラと見えていたコーヒー牛乳を取り出して、俺に差し出した。……例のごちゃごちゃしたパンと一緒に


「はいっ」

コーヒー牛乳はありがたい。
でも、このパンはちょっと………

「……甘いの…嫌い?」

狩屋が首を、かしげながら聞いてきた。

ードキッー

なにこいつ。可愛い。
そんな顔されたら、断るものも断れないだろ。

「……いや、貰うよ。ありがとな。」

「…うんっ!!((にへっ」

いやいやいやいやいやいや

なんなんだよ。ほんと
こいつ、かわいすぎるだろ。

ただ、その笑顔に負けて、もらってしまったこのごちゃごちゃしたパン。……食うべきか?

確かに、狩屋の目線は早く食べてほしいのか、こちらを向いている。


そんな目で見られたら、食うしかない……

俺は袋を開けて一口かじってみた。

……意外といけた。

……というか、普通にうまい。

「美味しいでしょ?」

「……意外といけるな。」

「でしょっ!!」

笑顔でそう言うと、狩屋も手元のパンを頬張った。

……ほんとにかわいすぎるだろ。

「にゃあー…」

さっき俺から逃げた例の猫が出てきた。

「にゃんこだっ!!おいで、おいでっ」

猫好きな狩屋は手招きしてこちらに呼び寄せようとする。

「にゃあー…」

でも、何故か猫は俺のもとにきた。

「…あー、剣城くんずるいーっ」

もしかして、こいつ…戻ってきたのか?

もう一度、抱き抱えてみる。
猫はおとなしくなった。

撫でてみた。

猫は気持ち良さそうに目を閉じた。

ふと、隣りの狩屋を見た。
俺のことを羨ましそうに見ている。

「…つるぎくんばっかりずるいー…」

むうと膨らませている頬が風船みたいで可愛い。

あまりに猫みたいで可愛かったものだから撫でてみた。

「?…つるぎくん?…」

大きな猫目をきょとんとさせてこちらを見てくる。

………………

狩屋のおでこに指を集中させて…

ーバチンッー

「いったああああっ!!!!」

狩屋はおでこを押さえていたいいたいと喚く。

「なにするんだよっ!!!すっごいいたかったんだけどっ!!!」

俺が今狩屋に近づけるのはこの距離まで。

あとの距離は……まだ詰められない。

俺が勇気を出すと詰められる距離は長くない。

いつか猫みたいに抱きかかえられる日まで、……
あの猫みたいに俺のところまで戻ってきてくれる日まで……

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