小説置き場

□智将の初恋
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豊臣、伊達らが勢力を増している中、中国、四国などの小さな国は周囲の国と同盟を結び、結束するしかなかった。

毛利元就と長曽我部元親も、互いの利益のため先日同盟を結んだのであった。


「………………」

(そろそろ来てもおかしくない頃合よ……長曽我部、何をしておる)

長曽我部はあれから、ほぼ毎日のようにここに訪れていた。これから国をどう動かすか、またはどう防衛策をどう練るかという話をするためである。

「………」
時間つぶしのために書物に目を通すが、集中できない。

長曽我部は、毛利の館にきては毛利のことを「好きだ」と言った。

戯れ言を。
そういってはぐらかしてきたが、最近長曽我部の言葉の意味を考えるようになった。
好きという彼の言葉に、どんな意味があるのだろうか。


「長曽我部様がお見えになりましてございます」
そういって障子があけられ、長曽我部が部屋に入ってきた。

「よぉ毛利!また来たぜ」
「半時遅い……それに、貴様が来ずともいいと言っておる」
「はは……手厳しいじゃねえか。まあ…今日は別の話があってな」

毛利が書物を畳むと同時に、長曽我部は毛利の向かいに座った。

「何用ぞ……」
「………毛利、俺達つきあわねえか」

つきあう…?
毛利にはその言葉の意味が分からなかった。

「つきあう……とは何ぞ」
「ああ、えっとだなあ……ずっと一緒にいようってことだ」
「……婚儀のことではあるまいな」
「いや、結婚はしないんだけどよ、一緒にいようってことだ」

うまく説明が通らずにあたふたする長曽我部。対して毛利は冷たい表情を変える様子がなかった。

「それはできぬ…我はひとりでよい。これまでもこれからも、我は一人で生きてゆく……貴様との馴れ合いなどいらぬ」
「………あんた……ホントにそれでいいのか?」

長曽我部は毛利の顔を覗き込んだ。

「人は一人じゃあ生きていけねぇ…。そもそも俺には、何であんたがそこまでして感情を凍らせるのか分からねえ」
「………主君は冷静にあるべきよ…。毛利のため、使える駒は最も有意義に使うがよかろう」


そうだ、大切にしたところで、愛したところで、人は死ぬ。

そもそも両親の顔を覚えていない毛利は、愛されていると感じたことすらなかった。



「……あんたの言うことはもっともだぜ毛利」
「ならばもう、去るがいい」

もう話すことはないとばかりに、毛利は立ち上がろうとした。
しかし、

「待てよ」

腕を途中で掴まれ、立つことはできなかった。

「……離せ」
「離さねえ」

次の瞬間。
毛利は長曽我部に押し倒されてしまった。体勢からして力が入れにくく、長曽我部を突きとばすことができない。

「あんた……綺麗なんだよ。鬼のこの俺が、一目惚れなんかしちまった」

一目惚れ。その言葉に毛利の頬が密かに赤らんだのを、長曽我部は見のがさなかった。

「愚かなっ……我は女ではない」
「分かってるさ……でもそんなの関係ないってほどに、惚れちまったんだよ。」
「………っ」

とくん、とくん、とくん。
なんだろう、この気持ちは。長曽我部の言葉を、声を聞く度に心臓が速く跳ねて、体が熱くなる。

「………こんな感情……分からぬ………」
「……もう決めたんだよ。あんたの心の欠けてる場所は……俺がふさぐ」

そういって、長曽我部の唇がそっと、毛利の唇に触れた。

「っ……」
「毛利…俺が嫌いか?あんたの唇を奪った俺が」
「…嫌いだ…!……だが…」

毛利は長曽我部と目を合わせられず、視線をはずした。

「貴様といると……我が分からなくなる……」
「……!」

その言葉の意味することを、長曽我部は知っていた。長曽我部は頬を緩める。

「毛利……やっぱり俺とつきあわねえか」
「………この感情を……解せるというのなら」
「はっ…俺が分からせるさ」
「ふん……」

やさしく「毛利、」と名前を囁かれ、もういちど唇が重なった。

そうして「好き」という感情を、毛利はこれから知ることになる。
 

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