めいん

□まさか。
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俺は見ちゃいけないものを見ちゃったのかもしれない。
いやだってアイツの好きな人って、後輩の可愛い女の子じゃなかったのかよ。
まぁ確かにアイツの発言の中に、相手の性別がわかるようなものは入ってなかったけどさ、いやでも普通は女の子だって思うじゃん。

でもさっき見たアイツの表情は。
笑ってた、よな。
同じ縦割りの後輩くんと話しながら。

え、まさか、いやでも。

確かに可愛い顔してたけどさ、男にしてはってぐらいで、女よりも可愛いわけじゃないし。
でも、アイツがあんな顔して笑うとこ見たのなんか、初めてだな。
てことはやっぱり、アイツ後輩くんが好きなのか。
もしかして、今までアイツに彼女がいなかったのって、男が好きだからか?

なーんて、なわけな。
笑えねー。

なんだろう。

俺は今アイツに対して驚いているのと同時に、自分に対しても驚いていた。
男同士の恋愛は、話に聞いたことぐらいはある。
交友関係が無駄に広いせいで、いろんな人種がいることも理解していた。

でもきっと、実際にそんな人間を見たら自分は軽蔑してしまったりするんだろうと、心の中では思っていた。
上っ面だけで、偏見なんてないとのたまって、心の中には中傷の言葉が渦巻くのだろうと。

けれど今、アイツの恋の相手が男だとわかったはずなのに、全く何も思わなかった。
それどころか、自分の中で冗談めいたことを考える余裕まである。
べつに、将護が自分の友人だから遠慮しているとか、将護だから平気だとかいうわけではない。
後輩くんとのこと、アイツには上手くいって欲しいと思っているし、応援するのをやめようとも思わない。

「将護の好きな子ってさー、もしかしてさっきの子?」
「っ、……あぁ」

目を見開いて彼は一瞬息を詰めた。
けれど隠すことはせずに、目を細めてまたいつものあの顔をする。
彼のことが本当に好きなのだとわかる顔だ。

コイツは本当に必要な時しか嘘を吐かない。
別段嘘が下手というわけでもなく、本当にただ、吐かないのだ。
だからコイツの言葉は、大抵信じていい。
将護が白だと言えば白だし、黒と言えば黒なのだ。
こんな風に自分から、好きな相手が同性だということを明かしてしまうくらい正直で。

それがいつも、うらやましくてたまらない。
俺はいつも、嘘ばっかりだから。

都合が悪いときは嘘を吐いて、笑って逃げて、いつも本音に背を向ける。
よくないことだとはわかっているけれど、物心つく頃からこれでやってきているのだから、もう仕方がないことなのだ。

「…やっぱり、変、か?」

控えめな声音が聞こえて、俺は我に返った。
どうやら俺が思案顔をしていたのが、自分の事だと勘違いしたらしい。
目線と顔はそっぽを向いているのに、意識だけはこちらに向けられていた。

あぁ、違うのに。
コイツはいつも不器用だ。
少しは自分に自信持てよな。
今さら好きな奴が男だってくらいで嫌いになったりしねーよ。

心の声は飲み込んで、にっこり笑う。

「いんや全然、お前が好きな奴とフツーに話せてんのに驚いたくらいかな」
「っ、それはアイツが饒舌だからで…」
「はいはい」

にやりと笑って流してやれば、赤くなった顔が明後日の方角を見て眉間にしわを作る。

あーぁ、微笑ましいねぇ。
初恋かってくらいに顔真っ赤にしちゃってさ。
ほんとこういう奴は報われるべきだよ。
実際後輩くんとの雰囲気も悪くなかったし、案外上手くいっちゃったりすんじゃないかな。

なーんて、この冗談も笑えるだろ。



to be continued...

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