《1》
□黙する想念
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その日は午後からベポや他のクルー達と共に、甲板の掃除に精を出していた。
キラキラと太陽の光を反射させ白く輝く大海原に、私は胸を踊らせた。
いつの間にか甲板掃除は水の掛け合いへと様子を変え、服の替えなど無い事もお構いなしに、ずぶ濡れになりながら甲板を走り回っていた。
ペンギンさんとは宴の夜以来会う事もなく食堂でも席が離れている為、接触する事はなかった。
私も船の仕事を覚える事で精一杯だったので、あの件について深く考える事はなかった。
トラファルガー・ローも同様に、夕方のお風呂の時間帯は船長室には居なく、朝に医務室で包帯を替えて貰う以外は特に会う事もなかった。
夜になり、ベポに誘われ手を繋ぎながら食堂へと向かう。
昼間はしゃぎ過ぎた為、結局着替えを持たない私はまた患者服を着る事となり、すれ違うクルー達に笑われた。
いい香りが漂う食堂に足を踏み入れると、シャチは既に夕食を食べ始めていた。
私とベポもいつもの席へと歩を進めていた、が…
「お前はこっちだ」
ドキリ…と身体が固まる。
まさかと思いつつ恐る恐る声のした方へ顔を向けると…
やはりそこにいたのはトラファルガー・ローとそしてペンギンさんだった。
「ここに座れ」
私に言っているのだろうか、思わず後ろを振り返るが該当する人物が他にいない。
「私…ですか?いえ私はこっ…」
「早く来い」
有無をいわさずとはこの事をいうのだろう。
少し驚いた様にこちらを見遣るシャチとベポを視界の端に感じながら、私は諦めの意を胸にトラファルガー・ローの隣の席へと向かった。
がしかし呼んだにも関わらず、トラファルガー・ローはペンギンさんと何やら話をしている。
また放置プレイだろうか。
誰か私を助けてくれないかと、シャチとベポに目配せをするとシャチと目が合った。しかしシャチは頑張れとでも言うかの様にコクコクと2回頷いて見せ、私から視線を外した。
「いた、いただ…きます。」
これはもう自分の世界に入ってしまおうと、両手を合わせてから運ばれた夕食を食べ始めた。
しかし無言で食べる食事とはあっけないモノで、10分程度で全部食べ終わってしまった。
「ご馳走様でした。」
ふたたび両手を合わせてから、トレイをカウンターへ返そうと腰を上げた時、トラファルガー・ローの意識がこちらに向いた。
「島の説明をするからまだ座ってろ」
仕方なく私はまた椅子に腰を下ろした。
「明日早朝に島に着く。ログは二日だ。先遣隊が先に降りて何もなければお前は明日の午後だけ下船を許可する」
そうだ、明日は島に着く日だった。シャチとベポと買物に行く約束をしていたのだ。
「お前は俺と行動しろ」
「えっ…」
思わず眉を寄せてトラファルガー・ローを見た。
「今回の島には海軍の駐屯所がある」
「海軍…」
ふとペンギンさんに目を遣った。
しかし彼はこちらを見ずに夕食を食べていた。
「お前の存在に気付けば必ずまたお前を狙ってくる」
(狙ってくる?)
トラファルガー・ローのその言葉が引っ掛かり、私は彼の方へと体を向けその疑問を投げ掛けた。
「狙われてるんですか?私」
トラファルガー・ローは前を向いたままだったが、彼の瞳が少しだけ揺れた。
「何で海軍は…お金を払ってまで私を連れて行こうとするんですか?」
ペンギンさんが私を見た。
気が付くと周りのクルー達の視線がこちらに集中していた。
「知らなくていい」
「はい?」
「お前はまだ知らなくていい」
「…あぁそうですか!もういいです!」
ガタリと椅子から立ち上がると私は食堂を後にした。
翌朝船は島についたようで、クルー達が甲板を忙しそうに行き交いしていた。
しかしそんな事は何だか私にはどうでもいい事だった。