*side*

□最後の悪戯
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*寄せ書き*

「最後にこいつに何をしたい…?」

ドキリ…

その言葉に俺の心臓が跳ねた。

「お…おぉ??」

船長室のベッドの上。薬で眠る無防備な名無しさんの横に寝そべるこの男・ペンギンはいけしゃあしゃあと何を言う…

「う………んん…」

そりゃあ決まってんだろ…アレとかコレとか色々だ。

しかし何やかんやと燻るものを抑えながらやっと辿り着いた結論…それは。

「コレ…へへへ」

ベポ経由で戻ってきたが絶対こいつに返そうと持ち歩いてたんだ。けど返し損ねてずっとポケットに入ってた。

「…だな。」

取り出したのは水色のペンと、雪の結晶のペンダント。まずはペンダントを名無しさんの首に掛けた。

そんで水色のペンを名無しさんのポケットに押し込もうとした時…ふと思い付く。

『ポルドの花畑にはリン以外と行くな!シャチ』

名無しさんの右腕に一筆啓上してやった。

すると…

「あぁ、それならシャチ。」

横で傍観していたペンギンが突然口を開いた。

「どうせだったらちゃんと残るほうがいい。」

「あ…?」

「油性ペン持って来い、あと俺の部屋から帽子と手袋も。」

お前…

「もうすぐリンが来るぞ、早くしろ。」

「お、おぉ…」

煽られるがまま、俺はパシリの如く船長室を飛び出した。





ガチャリと船長室に戻るとペンギンが横たわる名無しさんから顔を上げた。

てかおいおい…

「てめぇ、今なにしてた…」

「は…?」

「今…チュウ…してただろが…」

「してない。お前のその単純な妄想回路が理解出来ない。いいから貸せ。」

しれっと言い切るペンギンはやはり悪辣な男だ。

ヒュンと油性ペンを投げやると、ペンギンはさっそく名無しさんの左腕に何かを書き出した。

「てか長ぇよ…」

「お前もなぞり書きしろ。」

「うおっ…!」

野郎、キャップを外したままの油性ペンを顔目掛けて投げ返してきやがった。お陰で俺の手にもインクついちまったじゃねぇかアホかっ。

「ほい、終了!」

水色のペンで書いた字体をくっきりとなぞって満足してるとしかし悪辣な男はまたこう言ってきた。

「これじゃ物足りないな。」

「物足りないって何だ…」

「インパクトに欠ける。」

「何言ってんだお前は…」

ペロン…奴は躊躇なくTシャツを捲って名無しさんの腹を晒す。

「ここにも何か書け。」

「ペンギン…前言撤回するわ。お前は悪辣じゃねぇ…悪魔だ。」

とか言いつつ、速攻乗った。

『●触るな危険●』

ないとは思うがもしもの場合も、これでポルドのソーダ水はドン引きするだろ。へへへ、ざまぁ見ろ。

と、そん時…

ガチャ

「名無しさん!リン来たよ!て、アレ??何してんの?!」

ベポとリンが来た。

「おぉ、お前らちょうどいいとこ来たわっ…来い来い。」

「名無しさんさん…どうしたんですか…」

挨拶もそこそこにリンが心配そうに名無しさんを覗き込む。

「フフ…大丈夫、ちょっと薬で眠ってるだけだ。1時間くらいで目を覚ます。」

「で、でも…これは…」

「寄せ書きだ、寄せ書き。お前も書け、ベポも。」

わぁーい!とやっぱりすぐに乗ったベポは右腕に何やら書いてから、肉球にインクをベッタリ付けて腹の文字の横にスタンプを押した。

呆然とその様子を見遣るリンに俺は声を掛ける。

「身体は?」

「あぁ、はい…今はまだ左手の痺れだけなんで、日常に支障はないです。」

「そっか…」

ポンポンと頭を撫でてやるとリンは頬を桜色に染めて笑った。

…こんなに元気そうなのに

「そうだ、あのよ…これから名無しさんが世話になっからよ、何か礼をさせてくんねぇか?」

「え…?」

「礼は要らねぇ…ってのは無しだ。」

リンは暫く考え込んだ。そしてパッと顔を上げるとこう言った。

「じゃあ、シャチさん…私とデートして下さいっ。」

「おぉぉぉ…?」

「明日でも、あさってでも、どっちでもいいから…駄目ですか?」

くぅぅぅ…畜生、可愛い。名無しさんにもこんな事言われてみたかったぁ。急激に照れちまった俺はそれを誤魔化すように鼻先を掻いた。

「へへ、んじゃあ…明日もあさってもだっ。俺が何か買ってやる。けどその代わり、無理はすんな。少しでも体調悪くなったらすぐ帰る。いいか?」

「はいっ…!」

花のような笑顔が咲いた。

その後、ペンギンの口車に乗せられたリンも名無しさんの腹にハートマークを書いて寄せ書きは終了。

次に俺はテープを持ち出して名無しさんの右手にこれでもかと水色のペンを固定して、その上にペンギンが手袋を被せて帽子も頭に被せる。

と、途端名無しさんが苦しげに顔を歪めた。

「あの…外、結構暖かいですけど…」

「いいのいいの、てかこいつ起きるまで絶対取るなよ。」

「は、はい。」

それから暫くみんなで雑談しながら船長の帰りを待った。けど、そろそろとリンが腰を上げた。

「じゃあ…ローさんによろしくお伝え下さい。」

「あぁ…悪いな、こちらこそよろしく頼む。」

ペンギンとリンは握手を交わし、ベポは名無しさんをおぶって扉を出た。

「明日迎えに行く。」

「はい。じゃあ明日。」

3人の背中を見送って、船長室の扉を閉めた。

し…ん

俺もペンギンも暫くどっちも何も喋んなかった。思うところは同じだ。





名無しさんの事、そして…リンの事

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