《4》

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次に目が覚めたのは日付けが変わる頃。
部屋を見遣ると誰もいない。

私はもぞもぞとベッドから出た。





「お腹空いたぁ…」

何か食べる物はないかと、熱の余韻にふらつく足を何とか歩かせペンギンさんの部屋へ向かった。


コンッコンッ

「……」

コンッコンッ

「あれ…?」

何故彼はいつも部屋にいないのか。

「おかしいな…」

仕方なく私は一度部屋に戻りお小遣い袋を手に取ると、宿の1Fにある食堂を目指す事にした。










チリンチリン…

「すいませーん、肉肉C定食下さい。」

ひと気のない古びた食堂。
その入り口にあったメニューからがっつり系を選んだ私は、カウンターでお皿を拭く恰幅のいい店員さんに声を掛けてから店の一番奥の席に着いた。が、

「先に食券買ってー。」

その人はこちらを見る事なく入り口の横にある機械を顎で示してきた。

「……」

私は心で舌打ちをしてからガタリと重い腰を上げまた入り口まで戻る。

「肉肉C定食…500ベリー…」

袋から小銭を出してチャリン…

ポチッとボタンを押し、出てきた食券をカウンターに置いて再び席に着いた。

「あぁ…まだ怠いよぉ…」

「はいお待ちぃ。」

「え…」

テーブルに突っ伏す間もなく運ばれた湯気の立つ食事。

「は、早いですね…」

私は驚いた顔で彼を見上げた。

「客を見ればそいつの食いたいもんくらい分かるからなぁ…俺はプロだ。」

愛想の無い店員さんはぶっきらぼうにそう言うとカウンターへと踵を返した。

まぁ…最初に肉肉C定食と声を掛けた訳だし、そりゃあ誰だって分かるよね。

私は気にせず運ばれた食事に手を合わせた、が


「………」


目の前にあったのは肉肉C定食ではなくそしてメニューには無かった

「肉巻きチーズ、定食…?」

ガバリ…!
カウンターを振り返るが

「………」

そこに店員さんは、いなかった。










お腹を満たし部屋に戻る途中、階段を下りてくるクルーと会った。

「え…名無しさんお前、何で部屋から出てんだ…」

「あ、あぁ…お腹空いちゃって、ちょっと食堂に…」

「あららー、ペンさんに怒られっぞぉ?俺今、ペンさんに頼まれてお前の食事届けたんだからよぉ…知ーらねッ!」

「えぇ!だ、だってペンギンさん部屋にいなかったんだもんッ…しょうがないよねコレは…ね?ね?」

クルーに詰め寄る。

「あぁ?いねぇ訳ねぇだろ、お前を一人にしないように俺らローテーション組んで、常に誰かいるようにしてんだから!嘘つくならもっとましな嘘つけッ!」

「嘘じゃないッ!本当だもん!あのね、だからね、一緒に部屋に行こう?そして一緒に、謝ろう?ね?ね?」

「アホか…何で俺が謝んなきゃいけねぇんだよ!自業自得だろがッ…潔く裁きを受けなさい、じゃなッ!」

ポカリと私の頭を叩くと、クルーはタタタと階段を下りて行ってしまった。




















「あぁぁぁ…恐い、よぉ…」

ゆっくり、ゆっくりと階段を上りそして

ガチャ…

自分の部屋の扉を開けると

「どこに行ってた?」

「は……っ」

ペンギンさんはすぐ目の前に、いた。

「え…っと…」

「扉を閉めろ。」

「はい…」

バタン…

「名無しさん…」

「は、はい…」

彼はそのまま私を扉へ押し付け顎を掴み上げた。

「勝手に部屋を出るなと、何度言ったら分かる」

「いえ、あのペンギンさんが…」

「黙れ…」

「はい。」

「トラブルに巻き込まれたらどうするつもりだ?」

「……」

「少し考えが甘いんじゃないか?」

「す、すいません…」

「罰を、与えなきゃな…」

すると…ペンギンさんは私の帽子を取り床に落とすと、そっと耳に唇を付けてきた。

「……っ」

ゾクリ…熱い息が耳の奥で広がる。


「欲しくなったらそう言え…」


「……」


「嫌なら、耐えろ…」


「う…ッ」


舌が…うねり出した。
それと同時に彼の太い親指を口の中に入れられた。

腰を引き寄せられ、ただ耳を舐め続けられる…それだけの行為に私の身体から途端熱が湧き上がる。

「……んっ」

痺れる感覚に支配された私は白いつなぎをぎゅぅっと掴みそして声を漏らした。

彼は耳を離れ、首筋にも…

「ちゃんと咥えろ…」

「ふ…あっ」

だらしなく開いた口にぐっと指を奥まで押し込まれ、私は堪らずそれに舌を巻き付けた。

「もっと、しゃぶれ…」

「…ん、ぁ…」

首の刺激に震え、熱に浮かされ、
彼の言い付けを守らなければと音を立てながら指を咥え込み私は舌をうねらせた。

「上手だな…名無しさん」

気付けばまた彼の思うがままに溶けていく自分。

このまま、私は…

しかし

「……」

彼は唇を離した。
そして指を咥え淫らな顔をした私をじっと見つめながらこう言った。

「今日は薬を飲んで寝ろ。だが次、言う事をきかなかったら…」

「……」

「優しくしない…いいな?」

私からゆっくりと指を抜いた彼はそれを自分の口に含み、紅い舌でいやらしく舐めて見せてから

「おやすみ。」

ふわりと微笑み部屋を出て行った。





「部屋を、出てはいけない…」

あの子との約束は…
どうやらもう、守れそうにない。

























…不思議な、一日
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