《1》
□野生の本能
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「朝、か…」
部屋にある小窓から射し込む太陽の光に急かされて私は静かに目を覚ました。
周りを見渡せばやはり昨日と同じ部屋で…それはつまりここはトラファルガー・ローの船だという変わらぬ現実。
それにしても、海軍の船に乗っていた時はいつも眠りは浅かった。なのに何故だろう昨晩はぐっすり眠れてしまった。これも海賊の血かな…なんてふと苦笑ってはギリリと複雑に捩れた心。
「さて…と。」
それを振り払う様にゆっくりと左手を庇いながら上体を起こし床を探してみるがどうやら私の靴がない。
そういえばあの時キャスケット帽の男から逃げる際、靴など履いていなかった事に今更思い当たった。
「服もどこだろ…」
ついでに着ていた白い長袖のシャツに少し緩めのチノパンも昨日から部屋にはないのだ。
そろそろベポが来てくれる筈だから聞いてみよう。机の上の時計に目を遣るとその針は7時半を指していて、ベッドに腰掛けたまま暫く待ってみた。がしかしどうやら彼が来る気配も全くなかった。
「まだ早いのかな…」
船のクルーとならばこの時間帯、既に活動していると思うのだが。少しお腹が空いてきた私は部屋の扉へと歩を進め、外鍵が掛かっているだろうと思いつつもゆっくりドアノブに手を伸ばした。
ガチャリ…
「うそ、開いた…」
確かに昨日トラファルガー・ローはこの船で自由にすればいいと言った。
がしかし逃げられないとも言っていた。
「どうしよう…」
選択肢が限られているからこそ人は選び行動する。
故に漠然と広がる可能性を前にすると不思議と動けなくなるものだ。
例え今この船から逃げたとしてここは海の上である。
そしてその海へと逃げたところで海王類の餌となる。
いやそれ以前に私は泳げないのである。
そう思うとあの時私は海軍の船から何処へ逃げようとしていたのか…冷静に考えたら鳥肌が立った。
『無謀とは、弱さだ』
ふとキャスケット帽の男のあの言葉が頭を過る。
「とりあえず、ベポを探しに行こう…」
私は視界に入り邪魔な頬のガーゼを剥がし素足のまま部屋を出た。
左を見ると突き当たりになっていたので長くカーブする廊下を右に歩き出した。
予想に反してクルーに会う事がなく不思議に思いながらも突き当たった階段を下に降りてみる。
すると2階の廊下の奥からやっと人の声が聞こえてきた。
私は迷わずその部屋へと進むと一番奥の部屋から何やら騒がしい声が聞こえる。
予感がする。きっとこの部屋は…。
開かれた扉からそっと中を覗き見ると、そこにはこの船のクルー達が忙しそうにそして楽しそうに皆で食事をしていた。
それは父の船にいた時の光景と重なり私は何だか嬉しくなった。
その中で一際目を引くオレンジのつなぎがちょうど扉の正面の一番奥の席でこちらに背を向けご飯を食べているのが見えた。
「べ、ベポっ!」
咄嗟に叫んだ私の声にクルー達は一斉に振り返りさっきまでの賑やかさが嘘の様に食堂は静まり返ってしまった。
その視線に自分が不審者であった事を思い出した私は居た堪れずに部屋へ戻ろうと踵を返した。
その時…
「名無しさん待って!」
ベポが気付きこちらに走り寄ってきた。
「一人でここまで来たの?お腹空いてた?」
「うん、それもあるけどベポを探してて…」
「ごめんね!食べ終わったら部屋にご飯持って行く予定だったんだよ。」
「私こそごめん、じゃあ部屋で待ってるね…」
「いいよいいよ!来たんだったら一緒に食べよ!」
「え…いや…」
するとベポは私の腕を掴みクルー達の視線が集まる中、半強制的に凄い力で引きずる様に食堂を進んで行った。
ボフッ!
食堂の真ん中で突然立ち止まったベポの背中に私は顔を打ち付けたがベポは気にする事なく私を振り返り言った言葉に、唖然とした…。
「名無しさん、自己紹介しとこっか!」
「は、はい?」
そして私は…固まった。