《1》
□決定事項
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カツカツカツカツ
ペタペタペタペタ
船長室までの道のりがやけに長く感じる。
あまりの突然の出来事に私の頭は混迷し、トラファルガー・ローの背中について行く事で精一杯だった。
船長室に入り扉を閉めた。
トラファルガー・ローはいつもの椅子に腰を下ろし帽子を取ると前のめりに自分の膝の上に両腕を乗せ低い位置から私を見据えた。
私は部屋の中央に立ち彼のその動きをただ黙視していた。
「まず始めに言っておく」
トラファルガー・ローは直ぐに話し出した。
「今日から俺の事は船長と呼べ」
「……」
「返事は」
「…はい。」
「それからこの船のルールはは3つだ」
「1つ、俺や仲間を裏切る事は絶対に許されねぇ」
「2つ、この船のドクロに命を賭けろ」
「3つ、船長命令は絶対だ」
「……」
「分かったか」
「…はい。」
何故か私はトラファルガー・ローの言葉を至極冷静に受け止めていた。
私に向けられているその言葉がとても他人事の様に思えたからだ。
何かに自分の命を賭ける、私にはそんな経験がなかった。
父の船に居たと言っても私は海賊だった訳ではない。
ただ父の船が私の家だった、それだけだ。
そしてトラファルガー・ローは今度は椅子の背凭れに深く寄り掛かりながらこう言い出した。
「俺から言う事はそれだけだ。次はお前の質問を聞こうか」
私が聞きたい事はただ一つ。
「何故、私をこの船に…」
まず1番の疑問であろう事を問い掛けられトラファルガー・ローはニヤリと口端を歪ませた。
「お前を海軍に渡すのを辞めた」
「…何故、ですか。」
「お前にはまだお前が知らない事が沢山ある。それはお前が思う以上にデカくて厄介なものだ。そしてお前はそれを1人で抱えきれずに持て余してしまう。」
「……」
「海軍はお前を救ってはくれないし俺もお前を助けるつもりはない。ただ…」
「今日からお前の居場所はここだ。何をする時もお前は1人じゃない事だけ覚えておけ。」
「他に質問は」
「…あ、あの、1つだけいいですか?」
私があまり動揺を示さなかった事が意外だったのかトラファルガー・ローの眉がピクリと動いた、気がした。
「私に…考える時間をくれませんか?」
「却下だ。これは決定事項だ」
「は…はい。」
「以上だ。行っていい」
私は一礼してから踵を返し扉へ向かおうと足を一歩踏み出した。
その時…
「待て」
トラファルガー・ローは私を呼び止めた。
私は少し驚き振り返ると彼は机に向かい本を開きながらこう言葉を紡いだ。
「ガーゼはどうした」
「え?」
「頬のガーゼだ」
「え…と、朝顔を洗う時に取って…そのままです…」
「勝手に取るな。これは船長命令だ」
「は、はい。すみません。失礼します。」
そう言って私はまた一礼すると今度こそ船長室を後にした。