《1》

□水掛け論の行方
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「ふぅぅ…」

重圧な空気からやっと開放された私は部屋に戻ると、とりあえずベッドに倒れ込んだ。
そして体の中に溜まり込んでいたその空気を溜息と一緒に吐き出した。



『お前の知らない事が沢山ある』

『1人では抱えきれずに持て余してしまう』



トラファルガー・ローから突き付けられた言葉が何度も何度も頭の中でループする。

「何の事言ってるのか分かんないよ…」

私の知らない事って?
私は私の何を知らないの?
そして何故トラファルガー・ローはそれを知っているかの様に言うの?

「もぉぉぉぉぉー!!」

考えた所で所詮当て推量である。
今日はもう辞めよう。
考えるのを辞めよう。
そう思い、最後に枕を思いっきり扉に向かって投げ付けた。
その時…










ガチャ

ボスン‼

「ぐふっっ‼」

「あ……」

枕を投げたのと扉が開いたのは同時であった。
私の投げた枕を顔面で受け止めたのは…










「シャ、シャチさん?!」

「よ、よう。楽しそうだ…な…」

「す、すみません…ノックが聞こえなかったもので…」

「あぁあぁ、いいんだ…気にすんな…それより今…ちょっといいか?」










「……」

「……」

食堂の時とは違い今度はお互い俯いてちらりとも目を合わさず、私はベッドに、シャチさんは椅子に腰掛けて向かい合っていた。
何故私は今、あれだけ避けていたシャチさんと気まずい空気の中に身を置いているのだろう。
いや、ここは私の部屋でシャチさんがわざわざこの部屋に来ているのだ。

「あの…シャチさん、何か用があって来たんですか…?」

するとシャチさんはガバッと何かを思い出した様に顔を上げた。

「そ、そうだそうだ…」

「?」

すると何やらガサガサと持っていた紙袋から何かを取り出し私に渡してきた。

「これ…持って行く様にベポに頼まれたんだ…」

「あー!」

シャチさんが差し出したのは私がここに来た時に着ていた服だった。

「ありがとうございます!」

「へへ…あ、でも洗濯したの俺じゃねぇし…」

「そっか…洗濯に出てたからなかったんですね…」

久しぶりの私物との再会になんだか懐かしくてつい笑顔になった。
するとシャチさんとばちりと目があった。
…が今度は逸らさない。
そして…





「名無しさん!すまなかったぁぁぁっ‼」

シャチさんは突然椅子から崩れ落ちたかと思うと土下座をしてきたのだ。

「えっ?!シャ、シャチさん?」

私は驚いてどうする事も出来ずアタフタしてしまった。
するとシャチさんは床におでこを擦り付けたままこう言った。

「俺よぉ…あん時…お前の事、女だと思ってなくてよぉ…その…手…とか顔…とか…怪我させちまって…」

「い、いや…そんな別に…」

「謝ろう謝ろうと思っても…その…傷を見ると…痛々しくて…それをまた自分がやったのかと思うとよぉ…何て言えばいいのか…解んなくてよぉ…」

「あ、あのでもシャチさん…もともと仕掛けたのは…私…ですし…シャチさんはそれに乗っただけですから…だから…あの、顔上げて下さい…」

「…いや!あの時お前はああするしかなかった…俺がすぐに…女だって気付いてればこんな…」

どうしたらいいのだろう。
どういえばシャチさんは納得してくれるのだろうか。
謝りたかったのは私のほうなのに。そう、私も謝らなければ。

「シャチさん!謝るのは私のほうなんですっ!」

そう言いながら私は今だ土下座をして頭を上げないシャチさんの正面に正座をし、その両手を握り締めた。
するとシャチさんは少し驚きながらやっと顔を上げた。

「私のほうこそ…渾身の…その…大事な…あの…」

「…こ、こんしん?」

「私…誠意はあります!…だ、だから…水着美女の…」

「…水着…美女…?」

「えっと…水着…いや…」
コンコンコン

「名無しさん!着替えた?!」

突然現れたベポは部屋に入って目に飛び込んできた私とシャチさんの姿に少し驚いて固まったが直ぐにいつもの様にこう言った。

「あっ!名無しさんとシャチって仲良くなったんだね!それより早く掃除に行こうよ!」

「そ、掃除?」

「…お、おぉ、そうだったな。」

今日は私の新しい部屋になる物置部屋の掃除をするのだとベポは教えてくれた。
今まで居た部屋はこの船の医務室だったという。
それを聞いてシャチさんは私の頭をポンポンと2回叩いてから立ち上がった。

「んじゃあ俺、先行ってるわ」

そう言って扉を出て行った。










私もベポに促がされ私服に着替えてから物置部屋へと向かった。
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