《1》

□無窮の守
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「歓迎会…てことは宴かぁ…」


歓迎会までの間、私は新しい部屋のベッドで横になり色々な事を考えていた。

これからはここが私の居場所。
私はもう1人じゃない。

昨日までの孤独感が嘘の様だった。
人は誰かが一緒に居てくれると知るだけでこんなにも安心できるものなんだと今さらに気付いた。

私が父の船にいた時はいつも賑やかで、それを当たり前だと思っていた。
勿論海賊船に乗っていれば危険も付き物であった。
だから父は私に、自分の身は自分で守るよう教えた。
敵船との戦闘も経験している。
但し私はまだ人を殺した事はない。
父がそれをさせなかったのだ。


『お前はその手を汚すな』


そう言っていつも私を守ってくれたのだった。
父の船が海軍に堕とされる1週間前、何故か船は航路を逸れジャカル島に着港した。
そこで私は突然船を降ろされたのだ。


「陸の暮らしもいいもんだ」


そう言って父は私にお金を握らせると、船は沖へと消えて行った。

私は捨てられた…。

そう思うと涙も出なかった。
きっと以前、私が敵船に捕まった事で私を重荷に感じたのだろう。
その時父は直ぐに助けに来てくれたが、また次ないとは限らない。
これが、船を守る船長としての父の最善の判断。

私はそう自分を納得させ、海に背を向けたのだ。

でもそれから暫くして、父の船が海軍に堕とされた事を知った。
もしかして…。
いや、そうなのだ。
父はこうなる事を分かっていて、私を船から降ろしたのだ。


私は最後まで父に守られていたのだ。


島での生活は思っていたよりも大変だった。
何処から来たのか良く分からない私に、島の人達は色々な噂を立てた。

でもそんな私に声を掛け、店を手伝ってくれと遠回しではあるが、私に居場所を与えてくれた人がいた。
とても気さくな初老の男性。
彼は店の2階に部屋も用意してくれ、私はその人の経営する酒屋を手伝う事となったのだ。

いつの間にか島の人とも顔馴染みになり、友達と買物に行ったりキャンプをしたりもした。
島の生活にやっと溶け込み、私はこれからもずっとこの島で暮らしていくのだろうと思っていた。

しかし突然海軍が店にやって来て、私は連れて行かれたのだ。

最後に見た島の人達の目がやけに印象的だった。
驚きと、疑いの目。
あぁ、私はもうこの島に戻る事は出来ないのだろうと瞬時に理解した。
ただ私を拾ってくれた店主だけは、とても哀しそうに見送っていた。
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