《1》

□創痕の懐
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「名無しさん、おっせーぞ!」

「ごめんごめん!皿洗い手伝ってたからー。」

私が能力者だとトラファルガー・ローに告げられてから何日かが過ぎた。
ペンギンさんの言う様に、私は前と何も変わらず毎日船の仕事に追われていた。

「おーっとお2人さんは、こっちお願いするわ!」

「おいお前ら!言っただろ!別に俺と名無しさんは…」

「いーからいーから。じゃあよろしくねー。」

今日も朝からとてもいい天気で、午前中はクルー達と甲板掃除をする事となった。
以前の食堂でのシャチの発言以来、私達2人が揃うとクルー達は気を遣うようになっていた。

「んだよあいつら!名無しさんホントごめん。嫌な思いしてねぇか?」

「ハハ、私は大丈夫だよ。それより掃除掃除!」

私は左手首の固定も取れて今は洗濯も皿洗いの手伝いも出来る様になっていた。

「ふうー!何か暑くね?名無しさん、喉乾かねぇか?」

「シャチちゃんと掃除しないと怒られちゃうよ…?」

シャチは相変わらず優しい。
いつも私の事を気に掛けてくれている。
私が能力者だとトラファルガー・ローに言われた日の夜は、ベポの部屋でトランプをやろうと誘いに来てくれた。
お陰でその日の夜、私は笑い疲れてぐっすり眠れてしまった。

「そういえば名無しさんよ、いつ悪魔の実食っちまったんだろうな。」

「本当だよね。私全っ然知らないから困っちゃうよ。」

「いつからカナヅチなんだ?」

「いやぁ…それがね、私あんまり覚えてないんだよね。3歳の時に海に落ちて溺れた事があったみたいで。カナヅチはそれからなんだって。」

「じゃあ特定するのは難しいよなぁ。でもよ、親父さんの船にいた時に食ったって事は間違いねぇんだよな。」

「まぁそうだよね。」

「「んーーー…」」

私達は甲板掃除を終わらせると、床にゴロンと並んで寝転がり日向ぼっこを始めた。

「なぁ、名無しさん。」

「んー?」

シャチの真面目な声が耳に入ってきた。

「俺よー、今までお前にあった事も、これから先起こる事も、全部ひっくるめてお前の事が好きだから。」

「…シャチ…」

「あーぁ…何かよぉ、好き過ぎるってヤバいよな。名無しさんの事独り占めしたくなる。」

「…あ、あのねシャチ…」

「あー、いいんだいいんだ、気にすんな。独り言だ。」

「……」

シャチは今でも答えを求めてこない。でもだからこそこのままでいいのかと思ってしまう。
私もいつか、シャチの事が好きだと彼に言える日が来るのだろうか。
もう少し待ってみる事にしよう…。
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