企画物

□貴方と桜
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「二人で桜見るのって初めてだな」
彼が言った。

「そういえばそうだね」
私は応えた。

春島を二人でふらふらと探索する途中、偶然行き着いた大きな大きな枝垂れ桜を前にして、シャチと私は少し汗ばむ手をどちらからともなくギュッと繋いだ。

渇いてひび割れる幹や枝垂れる枝の強さは素人目からしても圧巻で、綺麗とかそんな安易な言葉を口にしたらバチが当たりそうなくらい実に見事で神々しい。

だから二人、暫く無言で見上げた桜。

「桜は儚い。咲いてすぐ散る。けどその散り際の美しさに、人は自分の人生の何処かを重ねる。そうやって次また桜が咲く日に出会うまで、生きる苦悶を乗り越えていくんだ。」

珍しく真面目にそう言ったシャチを見れば、彼は桜ではなく私を見ていた。

「え…?」と首を傾げたら、傾げた側の頬を左手に包まれて彼が顔を近付けてくる。

「シャチ…っ」

いつも花の様に甘く香る彼は、私にとっての桜。けれどその香りは儚さではなくて、揺るぎない夏の花の強さだ。

「名無しさん…、大好き…」

人目も憚らず致す熱いキスにはもう慣れた。押し付けられて練り込まれる舌に、何とか息を保ちながら彼のつなぎに縋るのも。

けれど今日のキスは…

「「ん…?」」

いつの間にか唇と唇の間に滑り込んでいた桜のひとひら。くちゅりとした苦い感触に二人して吹き出して終わる…

それはそれは、可愛いキスだった。



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