《2》

□枯葉の願い
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「名無しさん!おっせぇよッ!」

「はーいッ!行きます行きますッ!」

島4日目の午後、下船予定の私とシャチとペンギンさんは大きな声で会話をしていた。

先に船を降りた2人を待たせ私は自分の部屋に寄っていたからだ。
急いで梯子を下りてぴょんと着地した。

「ハハ、すいません。行きましょうか。」

「そんなに時間がある訳じゃないんだ。早く行こう。」

「はーい。」

白いつなぎに帽子。
帽子の形だけ違う私達3人は街へと歩き出した。

今日がつなぎの日で良かった

そんな事を思いなが、30分程歩いてやっと大きな街に出た。
ペンギンさんが言っていた通り人が多くとても賑やかな街だった。

「名無しさん、本当に買物いいのか?」

「私?一昨日ベポに買って来て貰ったもん。シャチとペンギンさんは?」

「俺も別にないな。シャチだけか。」

「何だよ俺だけかよ。まぁいいや、ちょーっとだけ付き合ってくれな。」

「何買うの?」

「それはひ・み・つ!」

3人でこうやって出掛けるのは勿論初めての事だ。
私は何だか嬉しかった。
他愛無い会話をしながらぶらぶらと人混みの中を歩いて行った。

「本当、ここは治安がいいんだな。海兵もちらほらいるけどのんびりしてるわ。なぁペンギン。」

「悪いよりは平和なほうがいいだろ。まぁ俺が言う話じゃないけどな。」

「ハハ。でもペンギンさん、悪人には見えませんよね。」

シャチも今日が初めての下船とあって街の探索を楽しそうにそして珍しそうにきょろきょろとしていた。

暫く歩いていると1軒の店の前でシャチが立ち止まりにやりとペンギンさんと私を見てこう言ってきた。

「俺ちょっとここ寄るわ。お前ら外で待ってて。」

そしてシャチは軽い足取りで店の中へと入って行った。

「シャチ何買うんですかね。小物屋さんですか?ここ。」

「さぁなぁ。あいつの考えてる事は分かりやすい様な分かりにくい様な…まぁいいさ。名無しさん、あそこのベンチに行こう。」

するとペンギンさんは私の手を引き人混みを掻き分け、路地を渡った所にあるベンチへ向かった。

ペンギンさんと手を繋いでる。
何だか私は少し恥ずかしくなった。

ベンチに私を座らせペンギンさんは立ったままシャチが入って行った店のほうへと目を遣っていた。
私はそんなペンギンさんの横顔をぼんやりと見ていた。

秋島の気候はとても過ごしやすく空気は少し冷たいが日差しがぽかぽかと肌を温めてくれる。

遠くの山に見える木々は黄色や赤の色のグラデーションでそれはそれは美しい絵画の様であった。

からからと風に吹かれ足元を転がる乾いた葉っぱに皆の幸せを私は願った。

「名無しさん」

突然ペンギンさんが振り返り私の名前を呼んだ。

「は、はい。」

私は少し驚いた顔でその呼び掛けに返事をした。

するとペンギンさんは私の目を見つめながらたまに見せてくれるあの優しい微笑みを浮かべてこう言った。

「名無しさんは今、幸せか?」

「……え?」

私は戸惑いそして…迷った。

「船長といて幸せか?」

何だろうか。
初めて見る、少し切ないペンギンさんの顔だった。

「私は…今……」

当てはまる言葉をなかなか見つけ出す事が出来ない私はただただ視線を泳がせていた。

するとペンギンさんは微笑みを消して帽子を深く被り直した。

「悪い。変な事聞いたな。忘れてくれ。」

そう言ってペンギンさんはまたシャチのいる店へと意識を戻した。
すると…

「おーッ!お待たせ!行こッ!」

ゆらゆらと不思議な空気の中にいた私達の所にシャチが小さな可愛い紙袋を1つ持ち笑顔で戻って来た。










それからも色々な店を見て回りずっと歩いていた私達は子供達が遊ぶ公園のベンチでジュースを片手に休憩をした。

人混みに少し疲れた様だ。
3人ともただぼんやりと子供達が走り回る姿を目で追い掛けていた。

「さてとッ。そろそろ行くか?」

暫くしてシャチがそう言いながら膝をぽんと叩いて立ち上がり、空になったジュースの瓶をゴミ箱に投げ捨てた。

「そうだな。そろそろ日が傾いてきたな。」

秋の空は紅くなるのが早い。
船までまた暫く歩く事を考えると確かにそろそろ戻ったほうが良さそうだ。
しかし…

「あッッ…!ごめん…ちょっと忘れ物が…」

「あ?何だ忘れ物って。」

シャチが不思議そうに私を覗き込んできた。

「えーっとですね…下着をですね…買いたいです…ハハハハ」

私は困った顔をして2人を交互に見遣った。

「お前は…散々色んな店回った後で何で今さらだよ。」

呆れた顔でシャチが言った。

「まぁ、しょうがない。帰る途中の店でいいか?」

ペンギンさんは優しく苦笑いをした。

「すいませんです…」

申し訳なさそうに私が謝るとペンギンさんが立ち上がりながら私の頭をぽんぽんと優しく叩きそして3人でゆっくりと船へと歩き出した。





途中、下着屋さんを見つけ私は立ち止まり笑顔で看板を指差しながら2人を振り返った。

「ここ、行ってきますッ。」

「おぉ。じゃー、入り口んとこいるわ。な、ペンギン。」

「あぁ。そんなに急がなくていい。ゆっくり見てこい。」

「はい。ペンギンさん、シャチ、2人ともありがとう…」

そしてお金が入った巾着袋を受け取ると私は2人に深々と一礼をしてから1人店の中へと入って行った。





かららん

店に入りまず私は帽子を取った。
広い店内には色々な色や形の下着から可愛い部屋着まで所狭しとしかし綺麗に並べられていた。

そして女の子達が楽しそうにそれらを手に取り鏡に合わせて笑っていた。

私はそんな女の子達を横目に真っ直ぐレジに向かい店員に声を掛けた。

「あの…すいますん…変な人がずっと付いて来てて…恐いんです。裏口から出させてもらえないでしょうか…お願いします。」

至極困った顔でそう言えば、綺麗な店員さんは一瞬店の扉のガラスから外を見遣ってから私に視線を戻しこう言った。

「え…大丈夫ですか…海兵さん呼びましょうか?」

その優しい言葉に私は首を振り、俯きながら答えた。

「あ、いえ…大丈夫です。家すぐなんで…このまま帰りたいんです…」

「そう…分かりました。こっち来て。」

彼女は私の手を引き、店の奥へと連れて行ってくれた。

がごん

分厚い扉を開けるとそこは裏通りだった。

「気を付けてね。もし危なかったら海兵さん呼んだほうがいいですよ。駐屯地すぐそこだから。」

そう言って彼女は右手にある小高い丘を指差した。

「すいません、助かりました。本当にありがとうございます。」

私はペコリと頭を下げた。

そして帽子を被り彼女が指差した小高い丘のほうへと歩いて行った。
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