《2》

□燻る火種
1ページ/2ページ


ガタリ

「おぉ…おはようございますッ…」





朝の食堂
私は昨日無理矢理一緒に座ったクルーの椅子にまた半分腰掛けようとしたが頑なに拒否をされ仕方なくおずおずと自分の席に着いた。

シャチとペンギンさんがこちらに目を遣り挨拶を交わした。

トラファルガー・ローはぴくりともせず朝食を口にしていた。
しかしそれは普段と変わりない事であった。

「はよ!名無しさんッ」

「どうした、朝から冴えないな。」

「……」

「い、いえ…別に。」

いつも思うのだが…なぜこの人達はたとえ波乱があったとしても次の日には普通にしていられるのだろうか。

これが男というものかそれともただ単にこの3人がそういう性格なのか。

そのぶれない強さを私にも分けて欲しい…そんな事を考えていた。





「名無しさんッ!お前能力で何か出来るってマジか?俺にも見せろよ。」

シャチがパンを頬張りながら大きな声で話してきた。

「あぁ…うん、後でね。」

「何だよ…何勿体ぶってんだよ。じゃあ飯終わったら絶ーッ対見せろよ?」

「はいはい…見せます。」

コックさんが運んでくれたトレイを受け取り笑顔でお礼を言ってから私は手を合わせシャチと同じパンを口に入れた。
しかし…


「そういえばよ、昨日お前の身体を隅から隅までじーっくり見てて思ったんだけどよ、あの腰の紋章って消せねぇのか?」

「ぶふッっ…!」

私はシャチの発言にバスターコール以来の衝撃を受けせっかく口に含んだ美味しいパンを噴き出した。

「ごほッ…!え?…こほッ」

胸をどんどんと拳で叩きながら真っ赤な顔で私はシャチを見遣った。
すると…










「ほぅ…名無しさん、お前シャチにも見せてやったのか」

トラファルガー・ローがここに来て初めて私を…見た。

「ぇ…いや…えッ…と…」

「見たよなぁーッ?一緒に風呂入って俺が洗って拭いてやったんすよ?何かマズかったっすか?」

シャチは私に首を傾げて見せた後、トラファルガー・ローを見据え明らかな挑発を始めた。

私はペンギンさんをちらりと見遣り助けを求めたが、彼は持っていたフォークをお皿に置いて片肘を着きゆっくりとその手でグレーの瞳を覆いながら大きな溜息を吐き出していた。

そんな私達の戸惑いを他所にシャチは更にトラファルガー・ローに言葉を投げ出した。

「船長が名無しさんに何したかは知りませんが、俺にとって名無しさんは大事な女です。だからいくらアンタでも…もう勝手に触らないで下さい」

そう言うと被っていた帽子を掴み取りテーブルに叩き付けその衝撃で彼の朝食の乗ったお皿が傾きがちゃりと大きな音を立てた。

「シャチてめぇ…立て」

その言葉を受けたトラファルガー・ローはがたりと椅子から立ち上がると藍色の瞳を鋭く光らせしかし口角を上げシャチを見据えた。


やはり火種は奥底に存在していた


私はさっきまで彼らに抱いていた思考を…捨てた











「いい加減にッ…して下さいッ!」

がたりッ…と椅子から立ち上がった私はしんと静まり返る食堂を気にせず声を張り上げた。

「私が…いけないんですか?!私がここにいるから…だからッ!…だったら私この船を降ります…ッ!それで、いいでしょ?!」

思いを吐き出し私は肩で息を切らせながら2人を交互に睨みつけた。

2人はただそんな私を見据えていた。
すると…










「名無しさん、行こう」

ペンギンさんが椅子から立ち上がり私へと歩を進めると私の腕を掴み2人を見遣りこう言った。

「このままじゃ名無しさんが可哀想だ。暫く名無しさんには近付くな、俺が預かる。異論は受け付けない…船長、いいですね」

そう言うとペンギンさんは私を食堂から連れ出した。










ガチャ

「ここにいればまだマシだろ。」

「ペンギンさん…」

そこは私の午後の仕事場、操舵室であった。

「コーヒー入れるからそこ座ってろ。」

ペンギンさんは優しく微笑み私をソファに促すと扉の横のコーヒーメーカーへと歩いて行った。





「あいつらの事は放って置け。このままじゃ暴走し兼ねない。せっかくお前が変わろうとしてるのに…まったく」

「……」

テーブルを挟んだ正面に椅子を置きそこに座るペンギンさんと私は同時にコーヒーを一口啜った。


また…ペンギンさんに救われた
この人はまるで父を重ねる海の様にその心は底知れず…深い


「ペンギンさん…私の何がいけないですか?何をすれば…私はどう応えれば皆は…笑ってくれますか…」

私は彼の瞳を見据え切なく笑って見せた。
するとペンギンさんは目を細め私を見返しながらこう言った。


「それだ」

「え…?」

「お前1人で皆を幸せにしようなんて無理な話だ…俺達はただお前が欲しいんじゃない、自分の手でお前を幸せにしたいと、そう思ってるんだ。」

「……」

「だがそれは…間違ってるよな。俺達がお前を幸せにするんじゃない、お前が自分で幸せを選ぶんだ。」


ペンギンさんはコーヒーカップをテーブルに置くと帽子を取りそっとその横に並べ髪をくしゃりと撫でた。

「フフ…まぁ、幸せとは何なのかも曖昧な話だがな。」

その言葉に私もカップを置きソファの背に深く凭れ天井を見上げて、その手前にある空気に意識を預けて言葉を紡いだ。

「私が思う幸せは…皆が…笑っている事です。」

「そうか。だが名無しさん、それは…欲張り過ぎだな。」

ペンギンさんは苦笑いするとまた帽子を掴みそして立ち上がった。

「仕事は午後からでいい、それまでここでゆっくりしてろ。俺はあの2人と話をしてくる。」

そしてそのまま操舵室を出て行った。

























あやふやな夢や幸せなんて
掴む事など…出来ない
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ