《3》
□下船命令
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やはり荒れ始めた空と海
船はゆっくりと、潜水…した
夜になりいつもなら寝ている時間、私は仕事で操舵室に呼ばれていた。
ちょうどいい
…どうせ眠れなかった
「名無しさんはここでレーダーを見ていてくれ。」
「はい。」
操舵室に入るとペンギンさんは自分が座っていた椅子に私を促しそのままクルー達の所へと行ってしまった。
「……」
一人ぼんやり…と黒い画面に映る緑の光を見遣る。
今回は何日間潜る事になるのだろう。
この海中独特の揺れのせいか
それとも空から引き離されるせいか
…やはり潜水中は心が落ち着かない
水色のペンでレーダーに変化があった箇所を記録する。
「あぁぁッ…邪魔ッ…」
そういえば切る事をすっかり忘れていた長いままの髪をぼさぼさと後ろに纏めながらこっそりと溜息を一つ、ついた。
リン達の船は大丈夫かな…
大きく揺れる船にふと、彼女とそしてスリの顔を思い浮かべていた。
その時…
「「「お疲れーすッ!」」」
トラファルガー・ローが…来た
「……」
私はまっすぐにレーダーを見つめ彼に気付かない振りをして自分の存在を消そうと試みた。が…
ガタリ…
彼は私の隣の椅子に腰を下ろしてきた。
そして椅子ごとこちらに向けると操作台に片肘をつきじっ…と私を見据えた。
「……」
「……」
それでも私は気付かない振りを続ける。
「……」
「……」
どれくらいの時間が経ったのだろうか…
いや、駄目だ…耐えられない
完全に意識をトラファルガー・ローに持っていかれその光の動きなど全く頭に入っていないのに、言葉も動きもなくただ画面を見据えているこの状況に我慢出来なくなった私は、観念して彼に話し掛ける事にした。
「こ、こんばんは…」
ちらり…と彼を見遣りにこりとそう挨拶をしてみたがしかしトラファルガー・ローはぴくりともせず藍色の瞳を私に向けたままだ。
「…急な潜水って本当、参りますよね…ハハ。」
「……」
私に…どうしろというのだろう
「あの…そういえば船長?…船長は、ポルドのビール飲みましたか?アレはですね、ピリッと辛口で…」
「名無しさん」
「はい」
やっと彼が言葉を発した。
私はレーダーに視線を移しトラファルガー・ローの次の言葉を待った。
すると…
「どうだった」
「は?」
突然の言葉に私は一瞬彼を見遣った…がすぐにまた前を見据えた。
「あのガキは良かったか」
「……」
緑の光を見つめる瞳がゆらりと揺らいだのが自分でも分かった。
「どうなんだ」
彼もまた…スリを
一体スリという存在は私だけでなく彼らにまで何を残したというのだろうか。
トラファルガー・ローのその問い掛けに動揺した私は一度唇を噛み締めてから無理にゆるりと微笑みレーダーに視線を置いたまま、言葉を返した。
「はい、良かったです…私は彼を、忘れません。」
「……」
「彼は…怒鳴ったり髪を掴んだり首を締めたり倉庫に閉じ込めたりしませんし…それに…」
「……」
「私を守りたい、幸せにしたいって言ってくれました。海賊の船になんかいて幸せなのか?って…だから私…」
ガタリッ
すると突然、私の言葉にトラファルガー・ローは椅子から立ち上がり胸ぐらを掴み上げてきた。
「…てめぇ」
しかし私は彼を見据え、続けた。
「私の大切な想いは…私だけの物です。誰にも渡しませんよ…例え、船長でも…」
一瞬、私のつなぎを掴む彼の手が揺らいだ。
しかし彼はすぐにその手を離すと酷く冷たい目で私を見下ろし低い声でこう言ってきた。
「…船を降りろ」
…え?
「てめぇみてぇな女…殺す価値もねぇ」
「船長!」
トラファルガー・ローの言葉に、今まで私達の様子を見据えていたペンギンさんが歩み寄ってきた。
「何を、言ってるんですか?こんな事で…」
「黙れ、船長命令だ」
「分かりました…そうします」
「名無しさんも調子に乗るんじゃない!謝罪しろ!」
「いや、です…!」
私は怒鳴ってきたペンギンさんを最後に睨みつけると操舵室を出て行った。
…違う
そんなんじゃ、ない
私が言いたかったのは…
それでも此処に
…帰ってきたんだ、と