《3》

□船の一翼
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気付けば夕刻

窓の外はすっかり晴れ渡り、しかし海を照らすその光はすでに水平線へと沈み始めていた










あれからすぐにトラファルガー・ローはいつもの椅子に座ると分厚い本を捲りながらノートに何かを書き込み始めた。

私はずっと、ただベッドの上で身体を丸めていた。

「……」

トラファルガー・ローに言われた言葉が胸に突き刺さったまま動けなかったのだ。

…自分の心

私のシャチに対する感情は
ただの同情なのか?

違う、私はただ…
彼の悲しい顔を、見たくないと

それの何が、いけないのか
…分からなかった


ごろり…
寝返りを打ちトラファルガー・ローのいるほうへと身体を向けた。
すると、

「わ…」

「何を考えてる」

見ると彼はいつの間にかベッドに腰掛け私を見遣っていた。

しかし私は無言でまた反対側へ身体を捻らせる。


「いつまで不貞腐れてやがる」

彼が私の隣に寝転んできた。

「こっち向け」

「……」

「名無しさん」

「……」

背中を向けたまま彼の存在を無視する私にトラファルガー・ローは小さく舌打ちをすると突然ふわり…と後ろから抱き締めてきた。


「てめぇ、バラすぞ」

それでも反応しない私に今度は首に顔を埋め、舌を這わせてきた。

びくり…
その熱い舌の感触にとうとう、反応してしまった。

「このまま、抱かれたいか」

そう耳元で囁かれた私は観念しゆっくりと彼のほうに向き直った。

「……」

「……」

藍色の瞳に、私が映る

それだけの近い距離にいるトラファルガー・ローもまた、私に映る自分を見ているのだろうか…


「ペンギンも言ってただろ…シャチは放っておけと。お前は何もするな…分かったか」

「…でも」

「このまま、奴を解放してやれ」

「え…?」

彼の言葉に私の瞳が揺れた。

するとトラファルガー・ローは優しく私の髪を手で梳きながらこう言ってきた。

「アイツは本当は分かってる…お前を手に入れる事は出来ないと…だから後は、お前次第だ」

「…私」


私が…彼を苦しめていた
彼を繋ぎ止めていたから

あの瞳は、私のせい…


「名無しさん」

トラファルガー・ローがぼんやりと考え込んでいた私の頬を撫でた。

「は、はい…」

ふと我に返った私はまた彼の瞳を見た。
すると



「脱げ、風呂に入れる」

「……」

一瞬固まった私はしかし次の瞬間かばりと起き上がった。

「自分で…入れますからッ…」

「来い」

しかしその叫びを聞く事のなかった彼は私の手を引きそのまま洗面所へと連れて行った。










じじじ…と彼がファスナーを下ろすとつなぎはすとんと足元に落ちた。

以前の風呂場でのトラファルガー・ローを思い出していた私はされるがままにただ俯いていた。

そして全てを脱がされると風呂場の椅子に促された。

「ついでだ…俺も入る」

そう言うと彼は洗面所でばさばさと服を脱ぎ始め腰にタオルを巻き中に入って来た。

「ちょ…ちょっと…!」

私は顔を真っ赤にして目を逸らした。

「あ?…何今更照れてやがる」

「いや…だってッ…」

「包帯は濡らすな」

トラファルガー・ローは平然とシャワーを出し私の後ろに座ってきた。

そして私の身体にシャワーを掛けると石鹸を泡立てて優しく背中を撫で始めた。


「く…擽ったい、です…」

「我慢しろ」

「…はい」


駄目だ
彼の、手が…


「前だ」

「は、はい…」

くるり…と彼のほうを向いて座った。

「右手は上げとけ」

「……」

正面にいるトラファルガー・ローを見る事が出来ない私は、まるで彼に誓いを立てているかの様に右手を顔の横に上げそして視線は真上をじっと見据えていた。

しかし…

「あ、あの…あのッ…」

「あ?」

胸を、撫でられ…

私はこの状況に耐え切れなくなり思わず立ち上がった。

「やっぱり身体は…自分で、左手で…洗えます、から…」

すると、目を泳がせながらそう言った私にトラファルガー・ローも立ち上がりぐいと腰を引き寄せた。

「何だ、したくなったか」

「ちちち、違いますよ…何言ってるんですかッ!まったく…」

「下も、洗うぞ」

「え?」

するとトラファルガー・ローは私の脚の間に泡の付いた手を滑らせてきた。

「あ…」

「動くな」

彼はそう言うと、腰を引き寄せたままスルスルとそこを洗い始めた。

「…んッ」

途端…私の身体が火照り出し

その感触に彼の肩を掴む

そして徐々に、首にしがみ付いてしまう


「どうした…」


私の思考に気付いている筈なのにトラファルガー・ローはわざと焦らし私の次を待っている。
しかし

「や、やっぱり…駄目、です…」

それは湯気のせいかそれとも
…他の何か、か

私は自分の身体の変化に背いて彼から離れた。

「のぼせました…髪は、今日はいいですから…」

素っ気なくそう言って急いで泡をシャワーで流すと、私は逃げる様に風呂場から出て行った。

























こんなの、無理だ…
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