《3》

□north blue
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昨日は色々あり過ぎた
だから浅い眠りのその先の

波の鼓に…目が覚めた





「起きたか、酔っ払い」

「……」

そうだ、あのまま私は
トラファルガー・ローのベッドで寝てしまったんだ…


「顔洗ってこい、食堂に行く」

いつもの椅子に座り私を見据えながら彼はそう言った。

「は、はい…」

私は急いでベッドから出ると洗面所に行き身支度を整えた。




















「はよっす!名無しさん、良く寝れたか?それとも…へへ、寝てねぇか?」

トラファルガー・ローの隣の席に着くとシャチがニヤニヤしながら話し掛けてきた。

「ハ、ハハハ…」

「ペンギンは」

「まだ海が荒れてるから、奴はずっと操舵室っすよ。」

トラファルガー・ローはちらりと私を見遣った。

「名無しさん、飯食ったら操舵室だ」

「……」


胸が、張り裂けそうだった
私はペンギンさんに一体何を言えばいい


「心配すんな。」

浮かない顔をした私のおでこをシャチが小突いてきた。

「お前は何も悪くねぇ。男ってのはよ、闘う生き物なんだ。ねぇ、船長!」

「あぁ」

「…う、うん」

「まぁ俺はよ…いつでもお前が一番だ。それは変わらねぇ。」

「あ、ありがとう…シャチ。」

「へへ…」

鼻の下を擦りながらシャチは少し照れ臭そうに…笑った。


切ない…
シャチの事、大好きなのに

背中を押してくれた彼の想いに、私は何を返せばいいのだろうか。


欲張ってかき集めたところで手のひらから零れ落ちてしまう大切な物達…

感情がブレる、手が震える
涙が…溢れる

心の叫びが身体を支配する

だから人は自分でも気付かぬうちに、一番大切な一つをいつか必ず…選ぶんだ

誰でも皆、そうなんだろうか…


シャチの瞳にぼんやりとそんな事を考えていた。その時…















「おはようございます。船長、此処にいるなんて珍しいですね…」


ペンギンさんが食堂に…来た


「名無しさん、この後は操舵室で仕事だ。」

ガタリ…と席に着くとペンギンさんは私に微笑んだ。

「夜、部屋に行ったら居なかったな。シャチと遊んでたのか?」

「あ、あの…」

「…コイツは俺といた」

トラファルガー・ローがフォークをガチャリと皿に置くとペンギンさんを見据え言葉を発した。

「ペンギン、お前に話がある」

「はい?」

「名無しさんは…」

「すいません船長…」

ペンギンさんも鋭くトラファルガー・ローを、見た。

「それは聞けない」

「あ?」

「いくら貴方でも…名無しさんは渡せない」

「てめぇ」

「貴方の気まぐれでこれ以上名無しさんを惑わせないで下さいよ」

「…名無しさんの心はてめぇにねぇぞ…ペンギン」

するとガタリッ…

ペンギンさんは突然椅子から立ち上がるとトラファルガー・ローの胸ぐらを掴み上げた。


「分かってる…」


しん…と静まり返る食堂
そこにいる皆が、二人の空気に息を…呑んだ。


「いつもは冷静なてめぇが悪足掻きか…滑稽だな」

トラファルガー・ローは口端を歪め彼に言葉を吐いた。
するとペンギンさんは…


ドスッ…!
ガタガタッ!

「きゃあぁッ…!」

トラファルガー・ローを…殴った。

突然の事に私は椅子から立ち上がりそんなペンギンさんを見遣った。

しかし彼は息も乱さず酷く冷静に、床に倒れたトラファルガー・ローを見下ろし言葉を紡ぐ。

「足掻いて何が悪い。あんたは昔からいつもそうだ…いつも、余裕な顔で外側から人を見てる」

「……」

「この船に乗ってから俺はあんたに忠誠を誓った。だが名無しさんの事だけは、そうはいかない…」

その言葉にトラファルガー・ローは口内に滲む血を床に吐き出すとゆっくりと立ち上がった。

「あんたより名無しさんを愛してる…だから手に入れた。名無しさんの身体を力で…あんたから奪った」

「てめぇ…」

「あぁ…何も知らなかったですか?だとしたら船長…虚しいのは、あんたのほうだ」


腐す様に冷たく言い放ったペンギンさんに…
今度はトラファルガー・ローが飛び掛った。

テーブルを越え力尽くでペンギンさんを壁に押し付けるとそのまま腹に拳を叩き付け、瞬間息が止まった彼の顔を殴った。

「ぐ…ッ」

「…立て」

目の上から血が流れ出したペンギンさんをトラファルガー・ローは椅子を蹴り倒しながら引き摺り出しまた殴る。

しかしペンギンさんもまた彼を殴り、それは壮絶な光景となった。


私は何も出来ず突っ立っていたが堪らずに声を上げた。

「やめてッ…!もうッ…」

「名無しさん」

すると今までただその様子を見据えていたシャチが言葉を遮ってきた。

「いいんだ、やらせとけ…」

「は?…何言って…」

私はシャチを睨みつけた。
がしかしシャチはにやりと微笑むと帽子とサングラスをテーブルに叩きつけこう言った。

「久しぶりだ」

「何…」

「昔はいっつもこうだった」

「……」

「同志としては尊敬するがよ…ダチとしては俺達、馬が合うのか合わねぇのか」

そう言うと…

「ペンギン…許さねぇぞ…」

「え…」










「俺も…混ぜろぉぉぉ!!」

殴り合う二人の間にシャチは華麗な飛び蹴りで割って入っていった。





「何、コレ…」

その姿はまるでケンカを楽しむ悪ガキの様。
私は呆然とただそんな男達の殴り合いの終わりを…待った。

そしてふと思う…

























やはりこれも
北の海の、風習…

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