《4》

□消えた宝
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顔も服も泥だらけの姿で、大量の菜の花の束を手に城に戻ったシャチと私は…

まずペンギンさんに怒られ、それから国王様とルジョルさんに説明を求められ、そしてスリに苦笑いされた。





「花畑、行ったんですね?綺麗だったでしょ?」

三人で城の廊下を歩く中、リンがシャチを見遣る。

「あぁぁ…まぁ、な。へへ…」

何故か照れ臭そうに笑ったシャチ。

「言い忘れてましたけどねシャチさん、あの花畑に行った男女は結ばれるってジンクスがあるんですよッ。」

「お…おぉぉぉぉッ!?」

「アハハッ…さぁ、名無しさんさんは早くお風呂入って着替えて下さいッ。出航は明後日ですけど見送りの晩餐は今日なんですからッ。」

「うん、ちょっとその前にコレだけ…置いてきてい?」

顔を真っ赤にしたシャチに気付かぬ振りをして私はリンに花束を見せた。

「…分かりました。部屋で待ってますねッ。シャチさんは、こっちですよ。」

私の言葉をすぐに理解したリンは一緒に来ようとしたシャチを引き止め笑顔で手を振った。










向かったのは、スリのお母さんの墓。

私はバシバシと手の泥を払ってから、甘い匂い漂う黄色の花達を飾り付けた。


「……」


…静かな夜。
膝を抱え、石に刻まれる彼女の名を見遣れば自然とまた涙が溢れる。

そしてふと重なるのは、自分の母の事。

「母も…幸せでありますように。」

そんな思いをボソリと呟いた私は立ち上がり、

「明後日の朝、出航します…もうこの海を引き返したりはしませんから、次また此処に来るのは旅の…その後です。」

決意を胸に踵を返した。
すると


「ありがと。」


ポルドの衣装を纏うスリがいた。

「ハハ…見て、た?恥ずかし…」

「皆あんたを待ってるよ…行こ。」

照れた私を気にする事なく彼は手を差し出した。

「うん…」

スリに連れられリンが待つ部屋に戻った私は急いで風呂に入り、久しぶりのポルドの衣装に袖を通して、三人で晩餐の場へ向かった。










ガチャ…

ワイワイ…ガヤガヤ…

「「「え…」」」

食堂の光景に私達は固まる。

晩餐は既に…始まっていた。

「あれ…名無しさんさんが来るまで待ってるって、さっきまで言ってたのに…」

リンは溜息をついた。

「いいんじゃない?ねえ、名無しさん。」

スリは私の頭に手を乗せた。

「ハハハハ…」

私はただ…苦笑い。

扉の前で賑やかなその様子を見遣っていた私達はしかしすぐに

「おお!名無しさんさん!リン!スリ!待ちくたびれたぞ!」

既にご機嫌な国王様に気付かれ手招きされた。

「待ちくたびれたって…待ってねぇし。」

ぼやいたスリに思わず吹き出してしまった私の手を引き彼は仕方なく国王様のいるテーブルへ歩を進めた。

その途中、通り過ぎるハートのクルー達からは

「名無しさん?!その服ッ…ヤバくねぇかッ…!」
「色っぽい…」
「やっぱお前は…海賊女帝を凌ぐ、俺達自慢の女海賊だぁぁッ!」

「ハハ、ありがと…あれ?皆、今日はつなぎなんだね?」

「だって誰が誰だか分かんなくなるッしょ!?」
「これが俺達の正装だッ!」
「格好いいだろぉぉ?」

「うんうん!格好いいッ!」

出来上がった仲間達と笑顔で声を掛け合ってから国王様の隣に腰を下ろした。

「さぁ!飲んで下さいッ!次も土産に樽を沢山持たせるが…やはり鮮度が違うから!」

「は、はい…いただきます。」

また国王様直々のお酌。

トクトク…
しかし注がれた辛口は

「……」

「……」

…グラスから溢れた。

「あ…」

「名無しさんさんッ…私は貴方が大好きなんだ!心変わりを待っているッ!やはりスリの花嫁に…!」

国王様…

「今度、西の海の島から桜の苗を譲って貰おうと思ってるんだよッ…それはね、どんな病いも治す奇跡の桜と言われていてね…貴方の身体もきっと良くなるからッ!」

声が、震えてる…

「そして…毎日晩餐を…しよう…!」

「駄目…」

「え…?」

「…駄目、ですよ…?」

私は国王様に、抱きついた。

「……」

「……」

だって…
一国の王ともあろう人が、

皆の前で涙する訳にはいかない。

「泣いちゃ駄目です…お願いします…」

「名無しさんさ、ん…」

「私、は…」

「……」

「これから先…貴方を父と思い、その心を裏切る事のない様生きて行きます…」

「…っ」

「だからどうか…笑っていて下さい…」

その言葉に…

「ワハッ…ワハハハ!ワハハハハッ!ほらっ!泣いてなど…笑っているよ!ワハハハハハハハッ!」

泣きながら笑い出した国王様。

「ハハッ!ハハハハッ!」

右に同じく私。

抱き締め合うそんな私達のやり取りをリンは微笑みながら、ルジョルさんは目にハンカチをあてそっと見ていた。

「名無しさん?国王に惚れたとかそんなオチ…ないよね?」

「へ…?」

少し呆れた顔をしたスリは国王様やリンを見遣ると

「悪いけど少しだけ、名無しさんを独り占めさせて。」

すぐに私を連れ立ち、鳴り響くポルドの音楽に踊る王族の人々やハートのクルー達の輪の中に紛れ込んだ。

「踊りは?」

「…した事、ない。」

「じゃあ、ただ揺れてればいいから…」

「う、うん…」

スリは私の腰に手を回し音楽に合わせ動く。

「名無しさん…?」

腰を密着させ私をリードする彼がやけに色っぽくて、目を合わす事が出来ない。

「次いつ会えるか分かんないんだ…だからちゃんと俺を、見て…」

「は、はい…」

私はおよおよしながらも彼を見つめた。

「あんたはまた帰る…」

「う、ん…」

「狭い船へ…じゃなくて、」

「……」

「広い、海へ…」

「うん…」

「でもね、離れててもさ…あの人達には負けないよ。」

ちらり…
スリが見遣ったその先、には

「はッ…」

遠くの席からこちらをじろりと睨むシャチ、背中に目があるペンギンさん、可愛く手を振るベポが…いた。

「ハハハ、ハ…」

そんな痛い視線に構わずスリは唇が触れそうな程顔を近付け言葉を紡ぐ。

「俺はね、名無しさん…いつかあんたが惚れるようないい男になるから…」

「……」

「そしたらまたプロポーズさせて。」

「え…?」

戸惑う私にしかし

「ふふッ…それと…」

スリは急に真面目な顔をした。

「あの髪留めは、あんたを導いてくれる…大切にしろ。」

「ん…?」

髪、留め…

「ルジョルから聞かなかった?あれは、俺からじゃないよ…?」

「……」

「あんたの…母親からだ…」

「……」

その言葉に…

「あ…あ…あ…」

「…名無しさん?」

「うわぁぁぁぁぁっ…!」

バシリ…!
私はスリの手を振り払い、楽しい晩餐の場を走り去った。

























…大変だ
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