《4》

□優しい男
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「あァ…シャチッ!もう…腰、がッ…」

「ヘバるな…まだまだ、だッ…」





すっかり夕刻…
しかし船への荷物の積み込み作業が全然終わらない。

「ピキッて!い、今ッ…ピキッていったよぉぉぉ…!」

「分ぁぁーかったから…一回下ろせ、せぇーのッ。」

「うがはァッ…!!」

大きな木箱をシャチと何往復も運んでいた私は、それを床に下ろしたと同時に甲板にひっくり返った。

「名無しさん…お前、何ちゅう声出してんだ…引くわッ!」

「だって…ピキッてッ!冗談抜きでもぅ…動け、ないぃぃ…!」

昼前から続く力作業に、私の腰がとうとう悲鳴を上げたのだった。

「決してサボりたいんじゃぁありませんんッ!信じてぇぇッ…ちょっとだけッ、休憩をぉぉ…腰に、癒しをぉぉ…!」

「お前、は…」

痛みに顔を歪め縋るように手を伸ばす私をシャチは至極呆れた顔で見下ろすと

「はぁぁァ…」

大きく溜息をついてからふわり…

「んぁッ…!」

私を抱き上げた。

「じゃ、俺の部屋で休め…」

「…へ?あ、いや?違う違う、ちょっとだけ此処で…」

「こんなとこに転がってたら作業の邪魔だろが…だから俺の部屋で…」

「いや、いや、いや…じゃあ自分の部屋で…」

「あ?俺の部屋だ…」

彼に抱っこされたまますったもんだしていると…


「名無しさんさん名無しさんさんッ!」

「「…ん?」」

リンが船の梯子を登ってきた。

「あれッ…?どしたの?」

見ると大きな籠を3つも抱えている。

「お、重かったでしょ?言ってくれれば運んだのに…」

「ううん、大丈夫ッ。それより名無しさんさんとシャチさん、楽しそうですね…何してるんですか?」

「いや、シャチがね…」

「聞けよリン、こいつが腰痛ぇ腰痛ぇってうっせえからよ、俺がマッサージしてやろうと思ってんのにコイツよ…」

「マ、マッサージ…?だからいいってッ…」

「え?腰、痛めたんですかッ…動けます?」

リンが心配そうに見遣った。

「ハハハ…少し休めば、大丈夫。」

私は苦笑い。

「そうですか…あのコレ、名無しさんさんに持たせる荷物なんですけど、今、部屋に運んじゃっていいですか?」

「…あ、じゃあ持つよッ。」

「お前は腰痛ぇんだから無理だろがッ!リン、俺が運ぶからそこ置いとけッ。」

「アハハッ、自分で運びますから…じゃあこのまま行きましょうかッ。」

結局3人で私の部屋に行く事となった。





ぼふり…

「いいい痛ッ…またピキッて…!」

ベッドにうつ伏せに置かれた私は顔を歪めた。

「ほいッ…マッサージ!」

「いいってシャチッ…本当に。」

拒む私にしかしシャチは脚に跨ると大きな手でゆっくりと腰を解し始めた。

「ほ、ほわぁぁ…き、気持ち、いッ…」

「な?いいだろ?」

リンはそんな私達の様子に肩を揺らしながら持ってきた籠を開けた。

「名無しさんさんコレね、船では普段使わないだろうけど、服とか靴とか…島に下りた時にでも使って下さいッ。変装にもなるだろうし。」

「ほぇぇぇッ…こんなにいっぱい…いいの??」

「はい、勿論ですッ!あと、この前買ったマニキュアと口紅も!」

「おぉぉ?あの色っぽいやつかッ!」

「ほわハハハァ、ありがとぉリン。」

気持ち良いシャチの指圧に私は目をトロンとさせたまま彼女に微笑んだ。

「でも名無しさんさん、今夜は私の部屋に泊まる予定でしたけど…腰、どうしましょうか…」

「行く行くッ…這ってでも行く。少し休めば落ち着くから…」

「はいッ…じゃあ一緒にお風呂入って、寝る前はいーっぱい!色んな話しましょッ!」

「おいおいそれ、俺も交ぜてくれ…」

シャチの一言に

「駄目ぇ。」
「ダメです。」

私達は即答した。

「じゃあ私、一度城に戻りますけどまた後で迎えに来ますね。」

「うんッ…」

リンは扉に向かい足を踏み出した。
その時…


「リン待て…」


シャチがリンを呼び止めた。

「え?…何ですか?」

「頼みがあんだ。」

「頼み…?あの……」

彼女は胸の前で腕をバツにした。

「…交ぜませんよ?」

「違ぁぁうッ!アホかッ!」

「…じゃあ、何ですか?」

「アレだ、アレッ…!」

「アレ…?」

すると、きょとんとするリンに彼は少し照れ臭そうにこう言った。


「まだ此処に、いてくれ…」


「……」


「じゃねぇと俺…またコイツにアレっ…アレを…アレして…アレが…」


その言葉にリンは

「そうですか…分かりました。」

傍らの椅子に腰を下ろした。

「悪りぃな…」

「…いえ、全然。」

「へへッ…笑えんだろ?俺はよ、腰抜けだ…」

「……」

それでも私の腰を揉み続ける彼をリンは目を細め暫く見つめていた。

「シャチさんは本当に…名無しさんさんが、好きなんですね。素敵です。」

「おぉおいッ!本人の前で言うなッ…」

顔を赤くしたシャチ。
しかし

「…え、名無しさんさんならもう、寝てますよ…?」

「あ?」

彼はそぉっと私の顔を覗いて

「がぁぁッ…!何なんだコイツはッ!」

そのまま仰け反った。

そしてゆっくりベッドから下りると溜息と一緒にベタリと床に座り、帽子をぽーいと後ろへ投げやった。

「コイツには…警戒心てもんがねぇのか?散々男で痛い目見てんのによ…」

ボサボサッ…髪を乱し口を尖らす。

「アハハッ。シャチさん達…だからですよ。」

リンは私の間の抜けた寝顔を見ながら言葉を紡ぐ。

「名無しさんさんがこんなに無防備になれるのは、この船の中だけなんですよ?知りませんでした?」

「お?」

「貴方達がいない時の名無しさんさんはね、いつも無理して周りに合わせて…気付けば何か考え込んでて。それと、ちゃんと他の男の事は警戒してるんですよ…スリですら、名無しさんさんの心には入れなかった…」

「……」

「シャチさんの言う通り、名無しさんさんは生粋の女海賊、貴方達は運命共同体…ですね。」

「そ、そうだそうだ…そうだろ?へへへへ。」

「アハハ…シャチさん、私やっぱりシャチさん応援しちゃおっかなッ!」

「リン、マジかッ!」

「じゃあ…私から幾つかアドバイスしましょうか!名無しさんさんはですね……」

「ふむふむ……」



また始まった2人の熱い語り合いは…
私が目を覚ますまで長く長く続いた。

























…好きな人
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