《4》

□夜明けの船
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城に戻りまず大露天風呂ではしゃいだリンと私はその後、最上階にある広いバルコニーでポルドのビールを飲み始めた。





「春島の夜って、いつもこんな感じ?」

相変わらず朧気な月を見上げながら私は聞いた。

「そうですね…でも今日はこれでもまだ、星が出てるほうなんですよ?」

「そっか…」

「……」

「……」

お互い夜空を見遣りぎこちなくそして言葉が続かない。

気持ちは…一緒。

…次はいつ、会えるんだろう





「あのね?リン…」

それでも時間が止まる事は無い。
だから私はまっすぐに彼女の美しい瞳を見つめた。

「言葉ではうまく…あぁっと、言葉じゃ…足りない…いや、えっと、上手く言い表せないんだけど…でも、あのね…」

「……」

「あり、ありッ…ありがっ…」

うるうる…
駄目だ、ちゃんと…伝えなきゃ。

「あぁぁ…ありがッどぉぉォッ…!!」

「うぐッ…名無しさん、さんッ!!」

本当はもっと一緒にいたい。
出来る事なら、ずっと…

そう思えるくらい私はリンが
…大好きだ。

「わぁあぁあぁあ…!!」

「名無しさんさぁぁぁーんッ!!」

見境なくボロンボロンに涙を流しながら私達は抱き合った。

「淋しくないッ!だってずっと友達だもんッ!で、でもっ…淋しいッ…!」

「は、はいッ!その通り、ですッ…!」

「私…また此処に帰ってくる為に、これからも…生きる、からッ!」

「はいッ…!」

「そしたら皆に…恩返しさせてねッ!」

「そんな…恩返しだなんて…」

「ううん…いつか、させてぇぇ…!」

「は、はいッ…!」

「「うぐぅぅぅぁあッ…!!」」

辛口の炭酸が、瓶の中からその様子をシュワシュワと笑う。
…するとそこに



「本当、いいコンビだな。」

「「…っんぐ?」」

スリが来た。

「あんたがポルドに来たときはどうなる事かと思ったけど…」

ガタリ…

「早いな…もう出航か。」

そして私の隣に座った。

「う、うん…あ、スリも本当に色々ありが…」

「礼は要らないんだってば。」

「ハハハ…」

カシャリ…
スリの持つグラスとも瓶を合わせた。

「シャチさんが見たら怒りますよね…交ざりたそうだったからッ。」

「シャチって、あの熱い人か…」

「シャチさんね、名無しさんさんと花畑行ったんだってッ…」

「へぇ、そうなの?」

そんな二人の会話に私はふとリンを見遣る。

「リン…」

「はい?」

彼女に、聞きたい。

「リンはシャチの事…今も、ずっと、好きなんだね…」

「え…?」

ゆらりと驚き揺れる漆黒の眼差し。

「明日からまた会えないよ?気持ち…伝えた?」

「……」

「リン…?」

するとニコリ…
彼女は、笑った。

「いいんですよ、名無しさんさんッ…シャチさんの気持ちは一つ。それはこれからも変わらないんですから…」

「……」

「それにきっと、貴方を一途に想う彼だからこそ好きなんだと思うんです私。」


…叶わない
そうと分かっていても大切にしたい想いが、ある。


私は何故か彼女から目を逸らした。

「それより名無しさんさん…明日からの貴方は新しい貴方です。失くした物を取り戻すのか手放すのかそれも含めて、ゆっくり、焦らず、自由に…生きて下さい。」

「リン…」

「皆に愛されている…それが貴方の一番の、強さですよッ…」

「う、うん…」

「アハハッ…さぁ!飲みましょう!ね、スリ!」

「あぁ…名無しさん、リンの事は気にするな。こいつはあんたより…強い。」

「へ……」

「人に心配ばっかかけるあんたが、人の心配するなって事。」

「んぁあ…」

返す言葉を失った私はぐびぐび…
ポルドのビールを喉に流し込み、また空を見遣った。










「ゼハハハッ…!てこの笑い声!誰の真似でしょーかッ?!」

「名無しさんさん…そろそろ…」

だいぶ飲んだ…

「じゃあ次スリねッ!ヤハハハッ…!はいッ…誰ですかッ!」

「……」

「難しくないよ?簡単簡単ッ!ハハハハー!」

「名無しさんって、悪酔いするとこんな感じなんだ…」

「あれ…スリ、初めて見た…?」

「ふふ…本当、飽きない女。」

スリは笑いながらも私の手から瓶を取り上げた。

「ちょっとスリ!まだ飲みたいッ!」

「酒はもうやめときな…日の出まであと3時間しかないから。」

「むッ…」

「そうですよ、名無しさんさん。何があっても今日出航するってローさんも言ってたでしょ?」

「やぁだぁぁぁッ!!」

「子供かよ…」

「スリ、私一応ローさんに連絡しとくね。」

リンは立ち上がると城の中へと入って行った。

「リンッ!もっと…話しようよぉぉッ…!」

ぐだぐだと彼女に手を伸ばした、その時

「名無しさん…はい、水。」

「うわッ…!」

項垂れる私の頭を突然…冷たい感触が伝う。

「び、びっくりした…」

見れば彼は、水が入ったグラスを私に傾けていた。

「な、何するの…」

濡れた私に少し恐い顔を向けるスリ。

「ちゃんとしなよ…そんなだらしないあんたじゃ、海に出せないだろ?」

「……」

「……」

暫くの沈黙
そして彼が紡いだ言葉は

「俺と国王は今からマリージョアへ向け出航するんだ。だからあんたとは此処でお別れだよ。」

「え?…こ、これから?あ、じゃあ国王様に挨拶を…」

「いいんだよ…あの人はこのままあんたに別れを言わないつもりだ。」

「そんな…」

ガタリ…
スリは立ち上がる。

「ねぇ名無しさん、船長さんが言ってたけどさ、あんた…母親に会わないつもりなの?本当にそれでいいの?」

「……」

一瞬戸惑った…がしかし私は答えた。

「うん…だって私は、前に進むから。もう寄り道は、しない…」

「そう…」

すると、どきり…
唇が触れそうな程に顔が近付く。

「あんたには…仲間がいるもんな。」

「え…?」

「でもいつか必ず、この海の何処かで出会うよ…」

「……」

「その時あんたはまた…生まれ変わるんだ。」

そう言ってゆっくり唇を重ねてきた。

「ス、リ…?」

「ふふ…また会う約束のキス。じゃあ、元気でね…」

彼は私を見据え微笑むと城の中へと去って行った。





ぼんやり…曇るグラス
まだ顎を滴る、水

彼は最後の最後にまた、
私に何かを残していった。





「スリも、元気でね…」

























心に刻むとは
…振り返らない、覚悟
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