《4》

□苛波の下
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空を仰げない私はシャチの言う通り

やはり…キツい。





夜からまた仕事。
なのに時間を上手く使えなくて、部屋で一人ただひたすらに航海術の本に目を通す。

「はぁぁッ…限界ッ…」

バタンッ!
イライラと本を閉じベッドに投げた。

「あ、そうだ、荷物を…」

リンが持たせてくれた3つの籠。
それをタンスに片付けようと重い腰を上げる。

ガタ…
蓋を開けるとリンの匂い。

「ハハッ…」

それだけで不思議と笑顔になれた。

中身は、一緒に買物に行った時に買った可愛い服…靴…下着。
そしてリンが使っていたであろう、同じく可愛い服や小物達。

「ん…?」

一番下にマニキュアと口紅が。


…『マニキュアは塗りっぱなしは駄目ですよ!面倒臭がらず、ちゃんとこまめに塗り直して下さい!』

…『口紅はすぐ落ちます!常に鏡チェック!』


初めて気付いた彼女のメモ書きに、涙が滲む。

「リンは本当、お姉ちゃんみたい…」

マニキュアは塗っても仕事ですぐに剥げてしまう。
口紅もこの船には必要ない。

変装の為ではないそれらを私に持たせた彼女の真意をぼんやりと、考えた。










「あれ名無しさん?今日休みでしょ?」

午後…
結局部屋にいる事にも飽きた私は、溜まる一方の洗濯物と格闘するベポの手伝いをしようと作業場に顔を出した。

「休みだけど暇なのぉぉ…乾いた?手伝うよ。」

「いいよー、ゆっくりしてなよ!」

「ううん、やらせてッ。」

ベタリと床に座りクルー達の大きなつなぎを畳み始める。

パタパタ…
手際良く仕事をする私をベポは笑って見遣りながらこう言った。

「名無しさんはやっぱり女の子だね!」

「ん…?何、で?」

急な言葉にきょとんとした。

「洗濯物畳んでるのって何かさ、"人間の女"って感じ!」

「ハハハ…何じゃそりゃ…」

「だって人間はさ、結婚したら掃除とか洗濯とかご飯とか全〜部、女がしてくれるんでしょッ?」

「そうな、の?私よく…分かんない。」

普通の暮らしを知らない私は小首を傾げた。

「あれ?違うのかな…オレもよく分かんないけど…でも皆、そういうのに憧れてるみたいだよ!」

「皆って…?」

「この船はさ、温かい家庭とか、家族の愛とか…そういうの、知らない奴らばっかだから!」

「家族…」

ふと、手を止める。

「オレの場合はね、人の言葉を喋る気持ち悪い子熊だって群れから追い出されて、ずっと一人で生きてたんだ!」

ベポはあっけらかんと言葉を紡ぐ。

「シャチも生まれてすぐ親に捨てられて施設にいたけど、喧嘩ばっかして手に追えないからってそこも追い出されて、しょうがないから毎日人んちから飯とか金盗んでたんだって!」

「……」

「ペンギンはね、小さい時にお父さんに冷たい海に捨てられたんだよ!だから自分も、殺した人間は海に投げ捨てるみたい!面白いよねッ!」

ずくり…
今まで考えた事もなかった皆の心の傷や痛み。

「そんなオレらはいつの間にか同じ場所に集まるようになって悪さして、それでキャプテンに出会って夢を見つけて…今こうやって、海に出てるんだ!目指すはワンピース!」

「そ、そっか…」

「で!夢の果ての夢は、大事な女の美味い料理と、可愛い子供…いつか自分で家族を作って毎日笑って暮らすんだって、皆言ってた!海賊なのにね、おかしいでしょッ!」

洗濯物を畳み終えた私は最後の一枚を積み上げるとぼそりと呟いた。

「ごめんね…」

「え?何が?」

「皆が此処にいる理由とか、夢の果てとか、そんな事もよく知らないで…後から船に乗った私が、航路を変えたり心配掛けてばっかでさ…」

すると、ベポは…

「名無しさんッ!」

ベシッ!!

「ぎゃあッ!いっっ…たぁぁぁッ!!」

野生の力で肩を叩いてきた。

「何言ってんの!怒るよッ?!」

「へ、へ…?」

思わず床に蹲った私の背中をベポは更にベシベシと叩く。

「同じ傷なら集めて1つなの!名無しさんは大事な仲間!俺達は1つのハート!だから小さい事いちいち気にしない!」

「ハ、ハート…?」

「そうッ…ハートの海賊団のハートはね、痛みと心…だよッ!」

「……」

その言葉を聞いた瞬間…
私の中を流れる何かが、熱くなった。

「ハート…」

「そう!ハート!」

「ハートの…海賊団。」

























…出会えた、喜び
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