《4》

□雪神の島
1ページ/2ページ


「雪は勿論、ありますよね…」

次の島はアークナス島
極寒の、冬島だ





「アークナス島は別名、雪神の住む島…寒さに弱いお前にはだいぶキツいだろうな。」

「えぇぇ…」

外は既に島の気候圏内。
着港を数時間後に控えた徹夜の操舵室で私はペンギンさんから島の話を聞いていた。

「あの…すんごい寒いんですよね?なら、コートとか帽子とか着込めば変装する必要って無くないですか?」

もっともな事を言ったつもりであった、が…

「そう、か…?」

「…へ?」

一瞬の微妙な空気の後、ペンギンさんはまた口を開いた。

「今回船を預ける造船所は、この偉大なる航路でも名の知れた腕のいい船大工が集まる所なんだ。勿論、海賊船の修理も数多く請け負っている。」

「はい…」

「まず欺くべきは造船所を仕切る男、ロート・ロッティ。ちんけな男だが幾つかの海賊団と繋がってるという噂もあるんだ。」

「そうですか…」

「次に、街には俺達と同じ様に船を預け宿を取り、暇を持て余している血の気の多い連中がうろついてる。」

「はぁ…」

「つまりは、ポルドの様な平和な島とは訳が違う。お前は宿に入るまでは気を抜くな、トラブルは厳禁…分かったか?」

「は、はい。」

ただでさえなかなか下船許可を貰えない私が堂々と人の目に触れるには
やはり自分を偽るのが当たり前、か。

沈む気持ちを何とか取り留め、またレーダーに視線を預けた。










早朝、船を島の北側の港に着けるとまず、トラファルガー・ローとペンギンさんは契約の為造船所へ、先遣隊は宿を取りに其々下船した。

「よし、と…」

私は部屋にある小さな鏡の前で最後の仕上げ。

…唇に、艶がのる。

「娼婦…」

下着の様な丈の短い白のワンピースに母からの髪留め、淋しい首元には前にシャチから貰った雪の結晶のペンダントを飾った。

「ゴメンねぇ、リン…」

リンがくれた可愛い服や口紅が、娼婦になる為の道具になるとは…

彼女がこれらを私に持たせた意味、それはきっと

いつか私が誰かを好きになった時、その人の前で綺麗でありたいと願う女心。

それを叶える魔法のアイテム、の筈だったんじゃないかな。

そして

「ギリギリだけど、コートで隠れるし…大丈夫。」

服に隠すは背中の擦り傷。

「ふぅぅ…」

生まれ変わった筈の私はしかし

何が変わった?
何も、変わらない

結局いつも…
何かを隠し何かから逃げて生きている。

「しょうがない…これが、私。」

そう呟きながらも

…ガシャンッ!!

鏡を床に叩き付けた。











ペンギンさんからの連絡を受け、船は造船所のドッグに入った。

クルー達は食堂で待機中。

ガヤガヤ…

「やっぱ俺は冬島の女が一番いい!」
「俺は夏島の女だなぁぁ…」
「とりあえず夜はパアッといこうぜぃッ!」

皆の頭の中は既に夜の酒場か。

でも仕方ない…皆、私の為に航路を逸れポルドで足止めを食らいその後の長い潜航を余儀無くされて、きっと色々溜まっているのだ。

「シャチッ…お前も行くだろ?船じゃねぇからお持ち帰りもOKだ!」

「おぉ…だな。」

シャチも輪の中。

ガタリ…
遅れて来た私はそんな彼らを横目にそっと入り口近くの椅子に腰を下ろす。と、

「あ…名無しさん…」
「…おはよッ。」
「支度…終わったか?」

「ハハ…うん、おはよッ。」

一瞬気まずい空気…にしかしそれに気付かぬ振りをして笑って挨拶をした。

「あれ…てかお前よ…」

「ん…?」

クルー達がぞろぞろと私の周りに集まり出す。

ジロジロ…ジロジロ…

「な、な、何…?」

「ちょっとよ、立ってみ?」

「へ?」

「「「いいからいいから…」」」

ガタリ…
何だか知らぬが立ち上がる。

「「「……」」」

暫くの沈黙、そして

「お前…娼婦だろ?」

「うん。」

「「「どこが…?」」」

「いや…はい?」

間の抜けた顔とその出で立ちに

「娼婦がそんな…モコモコに厚着しねぇよッ!」

「「「ぶわははははッ!」」」

クルー達は大爆笑した。

確かに…今の私は厚手のコートを着込み前ボタンをきっちり閉め、鼻が隠れる程マフラーをぐるぐるに巻いている。

「だ、だって…寒いもん!中はちゃんと…薄着だもん!」

「あのなぁ名無しさんよぉ…娼婦ナメんな!」
「男楚々らねぇ娼婦は娼婦じゃねぇ…」
「谷間見せて太腿出して、甘〜い色気を漂わせぇやッ!」

何なんだ、この熱気は…

「いや、それより…何だその足元は…」

すると次に1人のクルーが鈍く目を光らせ私を見据えてきた。

「あ、足元…?何?」

「何でいつもの靴なんだ?で…何で靴下履いてんだ?」

「さ、寒いから…」

「アホぉぉう…ッ!」

「ぐぅあッ!」

マフラーで首を締め上げられる。

「娼婦はヒールだよッ…高いヒール!ブーツは駄目!色っぽい赤とか赤とか赤とかのヒールのパンプス!因みに、俺は絶対に赤がいいッ!」

「あの…赤が好きなのは良く分かったけど、どうせ雪だし誰もそこまで見ないでしょ…?」

「甘ぁぁいッ!」

「うぐがッ…!」

再び…締められた。

「男が娼婦を見る時は下から上へ舐める様に見るって相場は決まってんだよッ!まずは足元なの!あ・し・も・と!」

どんだけそこに拘る…

「でも寒いから…」

「「「はい、やり直しぃぃ…!」」」

ぺっぺっと皆に手で追い払われた私はトボトボとまた自分の部屋へ戻り、マフラーを外してコートの前を開けそして慣れないパンプスを履いて不器用な靴音を鳴らす事となった。

























…架空の、女
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ