*side*
□勘
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*始まり*
あの時何故、俺は迷わず海軍の船から名無しさんを連れ帰ったのだろうか。
海軍に捕まっていたとはいえ犯罪者の類いには到底見えなかった。
だがあの細身の身体でシャチとやり合う辺り、まぁ普通ではない事は確かだ。
船に戻り船長に報告すると、下の倉庫ではなく医務室へ連れて行くよう指示が出た。
あの時の船長もきっと何かを感じ取ったに違いない。
俺と同じだ。
海賊の勘かそれとも男の勘か。
シャチの奴には呆れた。
名無しさんを本気でガキだと思い込んでいたが、俺から言わせればアイツの方が余程のガキだ。
俺はあの時合図をしてやったのに全く気付かないんだから情けないとしか言い様がない。
落ち込んでるのはまぁ、自業自得ってやつだ。
確かに名無しさんからは猜疑心は感じない。
しかしどうやら名無しさんに纏わり付くものが厄介な様だ。
船長はどうするつもりか。
楽しむか切り捨てるか。
船長と最初に討議した時は驚いた。
「3日で決める」
だがその言葉で分かった。
船長は名無しさんを手に入れたくなったに違いない。
まぁあの人の決断に間違いがあった事はない。
俺は納得した。
これから暫く忙しい。
名無しさんを追い込むのが俺の仕事だ。
誰も好まない役目だな。
だがしょうがない、この船での適任者は俺しかいないのだから。
海図も描き上げなきゃならないっていうのに、船長はまったく人使いが荒い。
だがこの仕事は嫌いじゃない。
最近は平穏な航海が続いていたせいか余計に疼くものがある。
女には感情を持たない俺だが、今回は少し楽しめそうだ。