*side*

□収穫
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*宴の食堂*

俺は普段から気配を消している。

これに気付くのはこの船では船長くらいだ。
だが名無しさんは何故俺に気付くのか。

昨日甲板で名無しさんは満天の星空を見ながら言った。

「明日は雨です。」

そして今朝起きたら…雨が降っていた。

我ながら珍しく心底驚いた。
だがこれで1つの可能性が確信へとこれから姿を変えていく。

宴の間も俺は名無しさんを常に見ていた。
うちのクルー達と馴れ合う姿は瞬間仕事を忘れそうになった。

シャチは名無しさんに許してもらったと浮かれていたな。
宴の最中も名無しさんにべったりだ。
あいつは仕事のつもりなんて全くないんだろう。
まぁ、後で話を聞けばいい。

酒も入り1人になった名無しさんを見て俺は自分で口角が上がっていくのが分かった。

そろそろ仕掛けに行くとしよう。

そして名無しさんは酒癖が悪いのか、それとも俺を警戒していたのか、食堂で自分から突っ掛かってきた。
俺には都合が良かった。

名無しさんがいた店の店主は名無しさんの事は本当に可愛がっていた様だ。

だか金の力とは恐ろしい。
たまたま店で酔っ払っていた海兵の持つ裏リストを見てしまったのだ。

そこにあった名無しさんの名前を見て店主は驚愕した…が、結局金に目が眩んだって訳だ。

まぁ海賊の俺がとやかく言える話ではない。

だがきっと名無しさんにとってはこれで良かったのかもしれない。

もし賞金首として世間に手配書が出回っていたなら、あいつはもっと陰惨な事になっていただろう。

名無しさんにそんな憐憫の感情を抱いた自分にすこし戸惑いを感じたがすぐにそれに蓋をした。

そして俺はいつもの自分に戻り対象者を追い込んだ。


名無しさんのあの痛みに歪んだ顔が、俺にとっては最高の収穫だった。

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