*side*

□いつか刻む印
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*冬島より*

恋って素敵だよな。
愛って素晴らしいよな。
むさ苦しいクルーの奴らの存在でさえ、今の俺には愛おしく思えるんだ。

冬島で名無しさんに告白した時、あぁ俺はもうダメだと思ったんだ。
名無しさんの心には他の誰かがいるんじゃないかってよ。

けど名無しさんが俺を受け入れた。
あいつは泣きながら俺の女になるって言ったんだ。

俺は一瞬、頭が真っ白になった。
これは夢か?
俺は今なら空を飛べるのか?
夢ならずっとこのまま続けと。

がしかしだ、名無しさんの唇が現実だった。
俺が差し出した舌をあいつは受け取り絡ませ合ったんだ。

俺は心が震えたぜ。
欲しくて欲しくてしょうがなかった名無しさんを、やっと手に入れたんだ。
この幸せを、世界中の人々にお裾分けしてやりたい位だ。

がどうした俺。
それ以上、ダメなんだ。
キスのその先が、俺には遠いんだ。
他の女だったらクルクルッと転がしてチョロチョロッて遊んでやるだけの事を、名無しさんには出来ねぇんだ。

もちろん何度も挑戦した。
キスする度に俺の手は名無しさんの身体を求めて彷徨い出す。
けどこのまま欲望に従ったら名無しさんを汚してしまうんじゃないかってよ、考えちまうんだ。

シャチ、お前は根性なしか?
いや違う。
俺は根性なしなんかじゃねぇ。
ただあいつの事が大切なだけだ。
いや、やっぱり根性なしなのか?
こらバカ違う、と。
そんな堂々巡りだ。

けど今はそれでいいんだ。
名無しさんの笑ってる顔が大好きだからだ。
だから俺はいつも馬鹿やってあいつを笑わせる。

これから名無しさんはずっと笑ってればいいんだ。
俺があいつを色んな事から解放してやるんだ。

今はまだ首のペンダントだけが俺の印だ。
けどいつか、あいつの身体に紅の印を刻むんだ。

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