*side*
□残された跡
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*熱の夜*
俺は断ったんだ。
熱に浮かされた名無しさんの看病なんて、嫌な予感しかしなかった。
熱い身体をベッドに寝かせて、冷たいタオルを頭に乗せてやった。
すぐに熱を吸い温まるタオルを、濡らしてまた頭に乗せる。
時折苦しそうに、眉間に皺を寄せ掠れた声を出してうなされる名無しさん。
あぁもう勘弁してくれと、俺は何度も天井を見上げた。
やっと目を覚ました名無しさんはまた…潤んだ目をして少しぼんやりしながら俺を見てきた。
俺がカップを差し出せば口を開け、薬を唇へ押し込めば熱い舌が触れる。
このまま俺の思い通りにしてしまおうと、少しずつ、いやもしかしたら初めから俺は理性を手放していたのかもしれない。
親指で名無しさんの唇に触れれば、俺はどうやってこの唇で遊ぼうかと、そんな事を考えていた。
半ば強引に唇を押し付けて、名無しさんの呼吸の限界を待つ。
開かれたその扉に、俺は俺の欲望を押し込んだ。
名無しさんの舌を優しく可愛がれば、俺の肩を掴む手に力が入った。
こいつの中に俺を残そう、そう思いながら名無しさんをかき乱した。
だが、唇を離して名無しさんの顔を見てみれば、こんな事をこいつにしてはいけなかったんだと、俺は自分のした事を後悔した。
名無しさんの中に跡を残したつもりが、どうやら消えない跡を残されたのは俺のほうだった様だ。