*side*
□同志
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*操舵室*
驚いた…。
船長が名無しさんの首を締めた。
長い付き合いだが、あんな船長を見たのは俺は初めてだったかもしれない。
あの時、男の名前を知らされて、名無しさんが壊れていくのが分かった。
船長も名無しさんの手配書を見てからいつもよりイラついていた。
たぶん今日は何かが起きる。
そう思っていた俺は、名無しさんの背後に控える事にした。
船を降ろせと言い出した名無しさんに、船長は確かに動揺した。
あの時の船長は…まるで愛する女に裏切られた男の様な。
そう昔の俺の様な、そんな感情だったに違いない。
しかし何も心配はいならい。
船長は本気で名無しさんを殺そうとした訳ではないのだから。
これから先、名無しさんが1人で暴走しない様、小さな芽を1つ摘んでおいただけだ。
戦闘で男を確実に撃ち抜いていた名無しさんを見た時は確かに驚いた。
男の返り血で手や顔を汚し、困った様に笑う名無しさんを見た時、俺の中で確かに何かが疼くのを感じた。
しかしそれからだ、船長が変わったのは。
きっと俺と同じだったのだろう。
宴で名無しさんを隣に置き、ガキみたいに名無しさんに酒を煽らせた。
他の奴らは分からないだろうが、あの時の船長はただの1人の男だった。
ただこうなると厄介な事が幾つかある。
名無しさんに惚れてる男は何も船長だけではない。
それが誰とは言わないが、意識を戻し声も出せずに放心している名無しさんを、俺はこのまま船長室に残してはいけないと、そう思った。
船長室を出て俺はそのままシャチの所へ向かった。
アイツは驚き慌てて、船長室へと駆け出して行った。
素直で純粋なアイツが心底羨ましい。
だが悪いな、同志よ。
俺もお前と同じ気持ちだ。