*side*

□夢は終わらない
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*変化*

リンという女がこの船に来てから
名無しさんが変わり始めた。

あの女と楽しそうに話す名無しさんは今まで俺達には見せた事のない幼くも美しい少女の様な顔だった。

船長は面白がって次の島までの3週間、あの女を乗船させると言ってきた。

俺は反対だった。
過去の事も勿論あるが今回は名無しさんが心配だった。

もしあの女がこの船を狙い行動に出た時名無しさんの心にまで傷を付けられるのではないかと。

しかしすぐに女の素性を調べてみればどうやらその心配は無さそうだった。

シャチの奴はまた余計な騒ぎを起こしやがって。
他のクルー達と一緒になって名無しさんとあの女を比べ1人で不貞腐れて勝手に自爆したな。

アイツはガキの頃からああいう男だ。
単純、馬鹿、アホ、思い込みが激しくてすぐに周りが見えなくなる。

俺達の故郷、北の海にある「うそつきノーランド」というおとぎ話を初めて読んだ時もそうだった。

黄金郷を探しに行こう!
ノーランドは嘘つきなんかじゃない!

目をきらきら輝かせてそう言う少年の頃のアイツに、周囲の大人は呆れ果て溜息を漏らしたものだ。

しかし、だ。
口には出さなかったが隣にいた俺も船長も…同じ気持ちだった。

まぁそんな俺達だからこそ今この船で先の見えない海の向こうを目指し航海しているって訳だな。

だがいつの間にか俺はシャチの様な純真な心を何処かに置き忘れてきた。

仲間以外は信用しない。
船を守る為なら何だって許し許される。
そして女に感情を持つ事を諦めただ欲望を吐く道具にした。

それがどうした…そうやって自分と向き合う事すらやめ、しかし燻る少年の頃の自分に首を締められその苦しさに、また女を犯し平静を保っていた。

しかし…名無しさんに出会い名無しさんを見ていく中で、俺はあいつの心に自分を見つけた。

それは…ジレンマ

本当は今だって黄金郷を信じている
それを大声で叫び空に手を伸ばしたい

夢を砂浜に書き綴りそれを攫う波を追い掛けいつか取り返しに行くその水平線に目を遣りそして日が沈むまでまた夢を見た日々。

あの頃の俺なら出来た事…
今の俺には出来ない事…

同じ様に自分自身にもがき苦しむ名無しさんは…
思いを声に出せなくとも
道に迷い蹲りながらも
信じる事を諦めていなかった

たとえどんな嵐にログを奪われようが…心だけは手放してはいけない

いつかきっと…解放される

それをあいつは言葉ではなく苦しむ姿で俺に教えてくれた。



まさかこんな俺が
1人の女に愛を求め、心を救われる日が来るなんて。

俺は叫ぼう…
あいつの空に

























おとぎ話なんかじゃない
…黄金郷は必ずある

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